13.改過自新は明後日に

私は馬鹿だと思う。というかあまりにもキャラがブレすぎだ。
牛島さんは私を“好き”だと言ってくれた。じゃあ牛島さんが好きになってくれた“私”とはどんなキャラクターだっただろうか。
ここ最近の非礼の連続については一旦置いておいて、基本的に何事も淡々とこなすようなキャラだったんじゃないだろうか。基本的に感情には左右されないように努めてきた。何事もとにかくソツなくこなすようにしてきた。
そんな姿を牛島さんは“マネージャーとして認めてくれた”ということなのだろう。恐れ多くも“好き”とか“惚れた”という表現まで賜いながら。だとしたら昨日のような“そう”じゃない私は、牛島さんには必要無い。むしろ迷惑なくらいだ。
そう考えたときに、どういうわけか“牛島さんに失望されたくない”という感情が自分の中に強く根付いていることに気が付いた。
上手く説明はできないけれど、それはやはり私自身牛島さんを尊敬していること、そして白鳥沢バレー部のマネージャーという立ち位置に並々ならぬ愛着を抱きつつあることが起因しているのだと思う。
そうとなったら。私の取るべき行動は一つ。


「…最上。お前、大丈夫か?」


体育館に入るなり、眉間に若干皺を寄せた牛島さんがよく通る低い声でそう呟いた。
不信感、なのだろうか。そんな表情に改めて気が引き締まった。


「…昨日はご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。」

「……迷惑?」


頭を下げると、上から怪訝そうな声が降ってきた。


「今一度姿勢を改めます。どうか今後とも、何卒よろしくお願いします。」


そしてもう一度牛島さんの目を見上げながらそう言った。牛島さんは少しきょとんとしたような表情だった。




***************


「あれ?若利くん…今日さくらちゃんと一緒に帰らないの?」


若利くんはどういうわけか部室の隅で正座をしながらずっと床を見つめていた。なんだか非常にシュールな画なのによく分からない妙な迫力がある。



「今日は“牛島さんの貴重な時間をもらうわけにはいかない”と、断られた」


そして心無しか声がいつにも増して低かった。
やっぱり無駄に物凄い迫力がある。


「…ソレ、遠慮してるだけじゃないの?」

「目に、確固たる信念があった。それ以上何も言えなかった」

「信念て」

「最上が、何故か突然よそよそしいんだが」


そこで初めて若利くんが今落ち込んでいるのだということに気が付いた。分かりづらいにも程があるでしょ。


「き、基本的にさくらちゃんってもともとよそよそしいかんじじゃない?」

「…今日の最上の前には目に見えない壁があった」


ああ、やっぱりか。俺の予想が悪い方向に当たってしまったようだ。
恐らく昨日のさくらちゃんは若利くんからの突然の告白を受けて、少なからず動揺していたのだろう。そこで若利くんのあの非常に言葉の足りない気遣いの言葉。
きっと真面目なさくらちゃんのことだから、それをストレートに受け取って、若利くんの告白自体も変な形で納得してしまったんじゃないだろうか。
だからフォローしなよって言ったのに。いや、若利くん相手に俺もあまりにも漠然としたアドバイスをしてしまったと反省はしている。
でもまぁ、さぁ、どうしたものか。


「アレじゃないですか牛島さん!」

そして空気を読まない工の溌剌とした声が部室内に響いた。あれ、なんか、イヤな予感がする。


「つ、工待っ「最上さん、牛島さんに告白されてドン引きして一線引いちゃったとか!」










「痛っ!なんで殴るんですか白布さん!!」


賢二郎が殴らなかったら、俺が殴ってしまっていたかもしれない。工には微塵も悪気は無いだろうに。危ない。


「五色お前黙れ。そんな仮定冗談でも言うな。」


賢二郎が血相を変えて工を諫めると、工はわけが分からないとでも言うように首を傾げていた。

そして恐る恐る若利くんのほうを見てみると、若利くんは正座をしたまま目を見開き、固まっていた。


「若利くん!そんなわけ無いから!絶対何かの行き違いだから!聞いてる!?ねぇ!若利くんってば!!」


基本的に真面目でどちらかと言えばストレートなはずの若利くんとさくらちゃんが、何をどうしたらこんなふうにすれ違うのだろうか。
工が言ったことだって可能性は0じゃないけれど、どうしたって俺にはそんなふうには見えなかった。


「賢二郎!!」

「ハイ。分かってます」


となると、外野からも一刻も早くフォローを入れなくては。しかして比較的頑固なさくらちゃんにそれが通用するかは疑問だけれども、どの道若利くんだけじゃ状況が悪化の一途を辿ることなんて目に見えている。
ひとまずは動いてみよう。
目でそう合図をすると、賢二郎は深く頷いたのだった。そして工は相変わらず首を傾げていた。


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