番外編.疑惑と説得(200000Hit御礼)

「魚見って、すげえよな」


恒例の、木兎さんとみずくさんの部室内勉強会。そこに珍しく居合わせた木葉さんは、さも当然のようにテキストへと向かう木兎さんの姿を見ながら感慨深そうにそんなことを呟いたのだった。


「すごいのは、木兎くんだよ」

「!?今俺のこと呼んだか!?なんか褒められたような気がする!」

「ほら、すごいでしょこの集中力」


机から視線を上げ、いきなりテンションMAXで周りをきょろきょろし始める木兎さんの姿を見ながら、みずくさんはどこか誇らしげな表情をつくったのだった。
みずくさんは今日も今日とてニュートラルに女神っぷりと発揮している。


「まぁもちろん木兎もすげぇよ。底辺からいきなり平均越えしてきたもんな。お前やっぱり一周回って天才だよ本当。」

「俺天才!?ヘイヘイヘーイ!!」


そしてさすが木葉さん。「褒められると伸びる子」のプロトタイプと言っても過言ではない木兎さんの扱いを、これでもかと心得ている。木葉さんのそんな発言を受けた木兎さんは、一通り叫んだ後に再び意気揚々とテキストに向かい始めたのだった。
たしかに木兎さんの集中力は凄いと思う。一度そこに上手いこと嵌まれば、もう周りの声すら聞こえない。バレーだったらともかく、よもやそれが勉強において発揮される日が来ようとは。
木兎さんにとって、元来勉強とはおよそ苦痛でしかないもののはず。それなのにこの時間における木兎さんは、いっそ物凄く楽しそうですらあるのだ。木兎さんにこんなイメージを刷り込んでくれたのは他でも無いみずくさんで。だから俺は、木葉さんの「みずくさんが凄い」という発言に対しては諸手を振って同意したいくらいの所存だ。


「・・・やっぱりお前すげぇよ、魚見。本当、先生に向いてる」


そして木葉さんは、テキストと睨み合う木兎さんの姿を見ながら再びそんなことを呟いたのだった。


「えっ!?そうかなぁ・・・!!」

「!?」


しかしてここで異変が起こる。木葉さんから褒められたみずくさんが、どういうわけか物凄く幸せそうな表情をして見せたのだった。
え、なんスかその顔。
俺も、割とみずくさんに対してはこまめに感謝を伝えているほうだと思うし、毎日のように「みずくさんはすごい」と呟いている。しかしみずくさんのそんな表情、今まで見たことは無かった。彼女はいつも、優しく微笑んだ後に「そんなことはない」と謙虚に呟くのだ。つまるところ、あれだろうか。結局は年下である俺のそんな言葉よりも、同い年でそれなりに勉強もできる木葉さんの発言のほうが、嬉しいということなのだろうか。
・・・いや、それも考えにくい。だって成績だけで言えばみずくさんのほうが良いはず。それにそもそも、みずくさんが相手の年齢如何で態度を変えるような人間には、少なくとも俺には見えなかったりするのだ。
だとすると、何か他の要因があったりもするのだろうか。


「誰がどう見てもそうだろ。自信持てって」

「う、うわあ・・・ありがとう木葉くん。なんかめちゃくちゃ嬉しいよ」

「!?」


しまいには、みずくさんは目に涙すら浮かべ始めたのだった。
やはり人間、努力が認められるということは形がどうであれ嬉しいはず。しかしそれにしたって今回のみずくさんの喜びようは、彼女のキャラクターを鑑みると少し異常な気さえしてくる。
もしかして、みずくさん、木葉さんのことが好きなんじゃないだろうか。そんな仮定のもと彼女の表情を改めて見てみると、頬は赤く上気し目は潤み、さながら恋する乙女のようなそれだ。これは、まずいんじゃないだろうか。


「お前も頑張れよ!」

「うん!」


そして木葉さんときたら、みずくさんの頭を惜し気も無くわしゃわしゃと撫で始めたのだった。
女性の髪って、そんなに簡単に触って良いものなのだろうか。なんだか度肝を抜かれた気分だった。傍から見ていると、そんな二人の姿はさながら恋人同士のようなそれで。
もしかして、もしかすると、この二人はそういう関係なのだろうか。俺が知らなかっただけで。だってそもそも、現在クラスも違う二人がこんなに仲が良いというのはおかしくないだろうか。気になりだしたら止まらなかった。


「・・・木葉さん」

「なんだ?赤葦」

「ちょっと廊下、来てもらえますか?」

「え、お前なんか顔怖ぇんだけど」


俺も元来、こう見えて気が長いほうでは無い。気になるなら確認をすればいいだけだ。
怪訝そうな表情をする木葉さんと共に、部室を出たのだった。


「木葉さん。」

「なんだよ」

「みずくさんとは、どういうご関係で?」

「・・・とりあえずなんかお前姑っぽいな。それかPTA」


木葉さんは、いきなりよく分からない方向に話を逸らしてきたのだった。
いよいよ疑惑は深まったのだった。


「・・・・・・。」

「なんで睨むんだよ!?」

「・・・いえ。なんだかお二人の仲の良さが異常だと感じましたので」

「だからお前いちいち怖ぇって!」

「それで、どういったご関係で?」


一向に明確な答えを返してくれない木葉さんに対し、少しイライラしてきたのだった。


「関係も何も・・・ただ中学一緒だっただけだよ!」


なるほど。それは知らなかった。中学時からの旧友ということであれば、そんな二人の仲の良さについては納得ができるかもしれない。
いや、でもおかしいだろう。だって中学生と言えばまさに思春期も真っ只中な次期のはず。異性と話すだけでからかわれたり、なんて状況も往々にしてあるものだろう。そんな中で、ただ「旧友」という関係性だけで至極ナチュラルに髪に触れることのできるような仲に至るだなんて、果たして現実的なことなのだろうか。


「本当ですか?」

「いや逆になんで嘘吐く必要があるんだよ!?」

「木葉さん。俺に何か隠していませんか?」


恐らく俺は今、至極怪訝そうな表情をしていることだろう。そんな俺を見ながら木葉さんは深いため息を吐いたのだった。


「隠すようなこともねぇよ。ただ、たまたま志望校一緒だったから、一緒に勉強する機会が多かったくらいで」

「そこで何かが芽生えた、と?」

「何にも芽生えてねぇよ!!」

「・・・・・・。」

「・・・いや、正直一時期ちょっといいなとは思ってたけどよ・・・」

「!!」


なんということだ。やはりそういうことだったのか。


「だから睨むなって!若気の至りってやつだ!!それに魚見は昔っから自分の夢のことで頭いっぱいだったからそんなキャラでもなかったんだよ!!」

「木葉さん、まだ若いじゃないですか」

「年下のお前が言う言葉でもねぇけどな!それにしてもつっかかるな赤葦・・・。お前のほうこそ魚見に惚れてんじゃねぇのか?」


木葉さんは一転して、ニヤニヤしながら俺に詰め寄ってきたのだった。なんだか少しイラッとした。しかして木葉さんのそんな言動から、たしかに木葉さんは現状みずくさんのことをなんとも思ってはいないのだろうな、というような漠然とした印象は受けたのだった。
しかしここで、自分の中に新たな疑問が生じた。
俺、なんで木葉さんとみずくさんの関係性に、ここまで執着しているのだろう。
俺がみずくさんを好き、というのは少なくとも現状では自分の中での「設定」のはずだ。そしてその意義を考えると、別に木葉さんとみずくさんが良い仲であろうがなんらデメリットは無い。いやむしろ、俺にとってはいっそ好都合であるはずのことだろうに。
木葉さんは軽そうに見えて、物凄く真面目なひとだ。しかも「器用貧乏」と銘打たれるだけあって、基本的にマメだ。これも俺の勝手なイメージでしかないけれども、木葉さんはいざ彼女ができたら全力で大切にしそうなタイプだと思う。仮に木葉さんとみずくさんがそんな関係になったとしたら、みずくさんは幸せになれるだろうし、部にとってもプラスだろう。
それなのに。


「・・・さぁ、どうでしょうね」


口をついて出てきたのは、そんな言葉だった。
少々面倒になったこの展開に対し、お茶を濁したいという意図が無かったわけではない。でも一方で、それは素直な意見であったりもする、ような気がするのだ。
木葉さんはそんな俺を見ながら一瞬驚いたような顔をし、ニンマリと笑ったのだった。
彼のそんな反応を見ながら、どこかホッとしているような自分もいた。
同時に、いよいよ本格的に自分が分からなくなってしまいそうになったのだった。
恐らくこれは恋心なんて甘ったるいものでは無く、みずくさんという人間を鑑みたときに「彼女が誰かのものになる」という事実を、俺の中の彼女に対する尊敬の念が許さなかったのだろう。そう考えると、しっくりくる。
とりあえず、少なくとも「現状」では、自分はそういうスタンスだということで自分自身を納得させてやろうと感じたのだった。


.

-
200000Hit御礼
テーマ:「木葉さんが主人公を褒めたときの赤葦くん(と木兎さん)の反応」

ALICE+