・しかし結局主導権は(req)1/2
「あ、天童くんだ」
「んにゃ?」
20:00。部屋の蛍光灯が1本切れたから、最寄りのコンビニに買いに来た。
それにしても、今の部屋に引っ越してからまだ8か月程度しか経っていないというのに。
蛍光灯って、こんなに保ちが悪いのか。それともただ単にもともと前の住人の使い古しだったのか。いかんせんまだまだ一人暮らし初心者な私には、その判断もおぼつかない。
そして蛍光灯を持ちながらコンビニを出ると、そこには制服姿の後輩が立っていた。
その子の飄々とした表情は、一気にパアッと明るくなったのだった。
「えっ!?#NAME1#ちゃん久しぶり!!何してんの!?」
「えっ!?タメ口ちゃん付け!!?」
驚いた。私の記憶の中のその子は、少なくとも私に対しても不自然でわざとらしい敬語を辛うじて遣っていたはず。でもしかし、その子の口から飛び出したのはまさかの流暢なタメ口だった。
一体私の卒業後数か月で、この子に何があったのだろうか。いやそもそも卒業してしまえば先輩後輩の関係性なんてなあなあになって当然なのだろうか。
まぁどちらにしても今更先輩面してとやかく礼儀だのなんだのを語るつもりは無いけれども。
「ってか相変わらず#NAME1#ちゃんちっさ!むしろ輪をかけてちっさ!!」
「うん。さすがに引っ叩き付けるぞ」
その子は、容赦なく私の髪の毛をわしゃわしゃとし始めたのだった。
でもたしかに、バレー部にいたときから日頃大きい大きいとは思っていたけれども、なんだか当時の彼よりも更に大きく見えた。当時も何も、まだ1年も経っていないのだけれども。
実際背丈ももちろん伸びたと思う。でもなんというか、少し貫禄がついたような気がする。どちらかと言えば態度がでかくなった、のほうが相応しいかもしれないけれども。
なんとなく、彼も立派に最高学年を全うしたのかなぁなんて感じた。
「てか、何持ってんの?蛍光灯?」
「うん。1本切れちゃったから」
「え、#NAME1#ちゃんここから家近いの?高校のとき寮じゃなかった?」
「うん、今アパート借りてるの。実家は電車で2時間弱。」
「まじで!?なんで教えてくれないの!!?」
「なんで私が鷲匠監督のテリトリーまで赴いて『家近いよ!』なんてアピールをわざわざできると思うの!?」
監督の名前を口に出し、思わず身震いしてしまった。監督はいちマネージャーでしかない私に対しても異様に厳しかった。何度涙を堪えたか分からない。
いずれ挨拶に行かなければとは思えど、そうするにもあまりにもそんなトラウマの記憶はまだなかなか新鮮すぎたりするのだ。
「決めた!今日遊びに行く!!」
「駄目です高校生が深夜徘徊なんて」
「じゃあ泊まる!!」
「なんで!?」
「ちょっと替えのパンツ買ってくるネ」
「パンツ!?」
天童くんは踵を返し、スキップ混じりでコンビニの中へと入っていったのだった。
どういうことだろう。私の意見なんて総スルーするような形で話はどんどん進んで行く。
思えば、この子たちの学年はいつもいつもこうだった。
強豪校と呼ばれる白鳥沢でも、近年稀に見る豊作と呼ばれた代。2年生でスタメンの座を勝ち取る子たちも多かった。
その中でも良くも悪くも特に目立っていたのが牛島くんと天童くんだった。その実力はあの監督の折り紙付きだから敢えて今更触れないけれども、兎にも角にも問題児だった。
牛島くんも天童くんも、それぞれ違った角度で先輩にも堂々と喧嘩を売ってくるような子たちだった。レギュラー内の関係性の悪化に伴い頭を抱えている当時の主将くんを、何度となく慰めた記憶がある。
「ただいまー!!」
「天童くんやっぱり駄目です帰りなさい!!」
言ったところで聞かない子だ、ということは重々承知している。
それでも、さすがにこのド平日に、高校生を堂々と外泊させるのは褒められたことではないと思う。監督にバレたらなんて言われるだろうか。背筋に悪寒が走った。
そして天童くんはと言うと、私が強めの口調で放った言葉に対してきょとんとした顔を見せ、そのまま首を傾げた。
「あのさ、#NAME1#ちゃん」
「なんですか!!」
「#NAME1#ちゃんの部屋って脚立とかある?」
「無いですよ失敬な!意外とこんな身長でも生活はなんとでもなるからね!でもお立ち台はあるよ!」
「じゃあ、#NAME1#ちゃんどうやって蛍光灯替えるの?」
「・・・・・・・。」
・・・・・・あっ
_
「はい、かんりょー」
「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
アパートに着くや否や、天童くんは私愛用のお立ち台に乗り、軽々と蛍光灯を交換してくれたのだった。
有り難い。有り難いんだけれども、なんだか物凄く負けた気分になった。
「というか天童くん!やっぱり泊めるのは無理だよ!」
「なんで?」
「だって天童くんパンツしか買ってないじゃん!この時期パンイチで寝たら風邪引くよ!?」
「そうだネ」
「え、何!?私の着るの!?入るかな!?」
「そんなお子様サイズ入るわけないじゃん。しっかりしてよ大学生」
「分かんないでしょ!?」
「え、何#NAME1#ちゃんむしろ積極的に着せたいの?」
「着れるもんなら着てみな!バーカバーカ!!」
いや、分かっている。分かっているんだそんなこと。
でもなんというか、先ほどから負け越しているこの感じ。どうしても年上としては耐えられなかった。やっぱりこんな私にも、先輩としてのプライドは残存していたらしい。
いや、その割には口調が幼稚になってしまったけれども。仕切り直さなければ。
「大丈夫。部活ジャージもTシャツもあるから」
「・・・だってそれ使用、済・・・」
言いかけて、さあっと血の気が引いていく感覚に陥った。
・・・再三になるけれども、私は白鳥沢バレー部の、一応はOBにあたるわけで。
そうなると、後輩たちの試合の応援にだってこっそりと行ってみたところでなんらおかしくは無いわけで。
つまるところ、その結果だって当然知っているわけで、
「なんかさぁ、朝寝ぼけて普通に用意しちゃったんだよね。習慣って怖いよね。」
・・・・・・。
「・・・ワイシャツ。」
「へ?」
「ワイシャツはさすがに替え持ってないでしょ。明日までに乾くように洗って乾燥機かけるから。ついでにパンツも洗ってあげるからさっさとお風呂入ってきて。」
「え、俺#NAME1#ちゃんと一緒にぶほっ!?」
危うく持ち前のゲス方向に向かい始めたその子の顔面に向かって、フェイスタオルとバスタオルを全力で投げた。
するとその子は、思いの外大人しくお風呂場へと向かって行ったのだった。
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