・狼少年の狼狽
もう3年目になるのか。
その子は私がこれまで出会ってきた人々とは全く異なるキャラクターをしていた。そう漠然と言ってしまうと若利くんあたりも当てはまってしまうけれども、若利くんは関わり方さえちゃんと考えれば案外面倒な人ではない。基本的に天然だし。でもあの子は違う。あまりにも掴み所が無すぎるのだ。
「ねぇねぇ」
今思うとこれまでの高校生活は本当に部活漬けの毎日だった。私はマネージャーでしかないけれども。しかしそうなると自ずとあの子とはそれこそ毎日のように顔を合わせていたのに。にも関わらず未だにあの子の人となりは私のなかで漠然としている。あの子について私が唯一はっきりと言えるのは“良い性格はしていない”ということだけだ。
「ねぇってばー」
今思えば私はあの子にはなかなかの扱いを受けてきたと思う。元来騙されやすいらしい私にとってあの子はまさに天敵だった。あの子にしてみたら私は恰好の餌食と言ったところだろう。私の記憶の中のあの子は、腹が立つことにいつも私を指差して馬鹿笑いをしているのだ。
「#NAME1#ちゃんってば!」
「うわぁっ!?」
突然視界がその子のどアップで埋まった。思わず叫びながら後退りをしてしまった。そんな私を見てその子は相変わらず目を細めながらニヤニヤと笑っているのだ。私はこの子のこの表情がすごく嫌いだ。
「#NAME1#ちゃんが今何考えてたか当ててあげよっか」
「わ、私何も考えて無いし」
「フフン、俺のコトでしょ」
「天童くん気持ち悪い!」
まぁその通りなのだからいきなり“気持ち悪い”という言葉をぶつける私も私で口が悪かったとは思う。でも実際に気持ち悪いのだ。だって天童くんはいつもいつも私の図星をついてくる。そういうところこそが天童くんの強みだとは分かっているけれども、どうもまるで思考を全て見透かされているようで居心地が悪い。そして更にたちの悪いことに天童くんの真意のほうは私にはいつも全く読めないのだ。
「#NAME1#ちゃんって本当に分かりやすいよネ!かーわーいーいー」
「やめて」
「で、なんで俺のこと考えてたの?なに?俺のコト好きなの?え、好きなの?」
「き、きらいだよ」
「へぇ〜」
相変わらず天童くんのニヤニヤは止まらない。もうやだなんなのこの子。
「て、天童くんのバーカ!」
「俺でバカだったら#NAME1#ちゃんは何になるのカナ?」
ただの凡人だよバーカ!
…私はそんな言葉を必死に飲み込んだ。天童くんに口で勝てた試しなんてない。これ以上反抗したところで私だけ一方的にドツボに嵌っていくのが目に見えている。そうなると泣き寝入りをするしか無いのだけれども、なんだか天童くんのニヤケ顔を見ているとどうも腹の虫がおさまらないのだった。
「……っ!若利くん!天童くんがいじめる!」
だから私はいつものように他力に頼ることにした。丁度よくこの部では恐らく誰も逆らえないであろう若利くんがたまたま近くでぼーっとしていた。今日の私は運が良いみたいだ。若利くんはいつもの鉄仮面を顔に貼り付けてこちらにスタスタと歩いてきた。
「天童」
「なぁに?若利くん」
天童くんは心無しかバツの悪そうな顔をした…ように思う。これは私の希望的観測が前提となっているから真偽は定かではないけれど。
「#NAME2#相手に大人気無いぞ」
「えっ?」
若利くんが腕を組みながら言ったその言葉に物凄い違和感を抱いた。若利くん、大人気無いも何も私と天童くん同い年なんだけど。そうつっこもうとした矢先に天童くんはぶはっと吹き出したのだった。
「っ、若利くん、本当最高…!」
「?」
「ゴメンネ#NAME1#ちゃん。俺、“大人気無かった”☆」
私が天童くんを睨み上げている横で、若利くんはただただ満足そうに頷いたのだった。
―――――
「天童くんって本当にゲス!ゲスモンスター!」
「まぁまぁ落ち着け#NAME2#。」
そしてこれまた恒例の、獅音くんへの天童くんに対する愚痴大会。獅音くんはいつものように菩薩のような顔で私の話を聞いていてくれた。
「私そろそろ天童くんに一矢報いたい!一泡ふかせたい!」
「その台詞ももう3年目だなぁ」
獅音くんはしみじみとしたような顔でお茶(ペットボトル)を飲んでいた。
そうなのだ。もう3年目。つまるところ私は1年生の頃から天童くんには一度たりとも勝てないでいる。悔しい。本当に悔しい。でもかと言って何か策があるわけでもない。そもそもしがないマネージャーでしかない私があのゲスの極みミドルブロッカーに勝てる策なんて存在しているのかすら怪しい。
「…#NAME2#」
「なに」
「#NAME2#の悲願達成に繋がるかは分からないけど俺に一つ案がある」
「え」
獅音くんは、そう言ってまた菩薩のように笑ったのだった。
―――――
「#NAME1#ちゃん、どしたの深刻そうな顔しちゃってー?というか#NAME1#ちゃんの深刻そうな顔ってギャグでしかないよネ!」
「天童くん」
「あ、怒った?怒ったの?#NAME1#ちゃん激おこなの?」
う ざ い
…反射的に出てしまいそうになったそんなはしたない言葉を飲み込んで、獅音くんからの指示を頭の中で反芻する。それが効果的なものだとは到底思えない。むしろなんの意味があるのかすら分からない。でもしかしあの獅音くんから言われたことだ。試してみる価値は大いにある。まぁ試したところで私が失うものなんて無いし。よし。
「?」
相変わらず腹の立つ表情を作りながら首を傾げる天童くんを横目に、私は一つ咳払いをした。
「天童くんって、私のこと嫌いなの?」
獅音くんの指示通り、天童くんの目を真っ直ぐ見て、極力深刻そうに。我ながらなかなか練習通りに言えたと思う。
再三になるけれども、これにどんな効果があるのかは全く分からないけれども。
「へっ?」
天童くんは間抜けな声を発した後、口を半開きにしたまま固まった。あれっ?すぐにいつもの軽口が返ってくると思っていただけに、天童くんのそんな反応は意外すぎた。でもここは無言を貫けという獅音くんからの指示がある。私は唇を軽く噛みつつ天童くんをただただじっと見つめた。
「…………。」
「?」
恐らく口から生まれてきたであろうあの天童くんが、ただ口を半開きにして言葉を発さぬまままばたきをしていた。珍しいこともあるものだ。
私はただただじっとそんな天童くんを見つめた。これも獅音くんの指示だ。
「……だよ…」
「え、なんて?」
「俺は、#NAME1#ちゃんのこと好きだよ」
天童くんは少しバツが悪そうな表情で、目線を逸らして口を尖らせながらそんなことを言った。ほのかに頬が赤い気がする。
「へぇ」
なんだかそんな表情が新鮮で、私はただ生返事をしてみた。すると天童くんは一瞬ぽかん、とした後に突如“ウワァー!”という奇声を発して立ち上がったのだった。え、なに。天童くん挙動不審。
「#NAME1#ちゃんのクセに!#NAME1#ちゃんのクセに!」
「なにが」
「やっぱり#NAME1#ちゃんなんてキライ!!」
天童くんは顔を真っ赤にしながら、私を指差してそう言った。
「あ、そう」
とにかく天童くんのそんな相貌に驚いてまた生返事を返すと、天童くんはわなわなと震え出した。
「#NAME1#ちゃんのバーカ!」
「え、あ、うん」
相変わらず、掴みどころのないひとだ。
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