・狼少年の狼狽2(req)
「…幸せっ…!」
最近通学路にできたケーキ屋さん。そこのブラウニーがとにかく絶品だった。私かねてから、ブラウニーを開発した人はノーベル賞を貰って然るべきだと思っていた。平和賞。しっとりとしたチョコレートに素敵に散りばめられたナッツたち。たったの一口でもこんなに巧妙に食感を変えてこられたら、止まらないに決まっている。そしてそのお店のブラウニーは更に、チョコレートの甘さとほろ苦さのバランスが私の好みにどストライクなのだ。
最近は毎日、帰り道で閉店間際のところに滑り込み、次の日のおやつにしている。幸せだ。とにかく幸せだ。
「あれ、#NAME1#ちゃん太った?」
「…なっ…!」
途端、私は某ゲス野郎の手によって天国から一気に現世へと突き落とされたのだった。
「なんかこう…ほっぺがいつにも増してモチモチしてない?」
「…天童くん…!」
「うちの部…マネージャーでも結構ハードだよね?それでプニップニになるってなかなかすごくない?ねぇ、すごくない?」
「………!!」
幸せには、それ相応の対価を支払うべきだ。だからある意味私だってカロリーオーバーは覚悟の上だったりもする。
でも、だからと言って、こんなにもストレートにズケズケと言われたらさすがにメンタル削られる。というか何故この子はわざわざそういうことを口に出すのか。私が太ろうが痩せようが天童くんにはなんの迷惑もかけていないだろうに。
天童くんにデリカシーという言葉を期待するだけ無駄なのだろうか。
「ねぇねぇ若利くん」
「なんだ天童」
「#NAME1#ちゃんが太ったー」
そして何故それをわざわざ若利くんに言うのか。
若利くんはきょとんとした顔で首を傾げながら私を見ていた。
「…別にいいんじゃないか?#NAME2#はまだ若い」
「若利くん!!?」
別に私はこの天然さんにフォローなんてものを期待したわけじゃない。でもどこかで淡々と“そんなことはないと思うぞ”と言ってほしいところがあったのは否めない。若利くんはそういうところがめちゃくちゃ素直だ。つまりは、恐らく私にてんで興味の無い若利くんですら気付く程に私は肥えてしまったのだろう。それは否定しようも無い事実だ。
覚悟してダイエットに臨むとしよう。しかして問題は、
「くっ…若利くん、本当最高…!!」
「?」
そのゲス野郎が口元に手を添えて笑いを堪えているところだ。何がおかしいというのだろうか。人の不幸がそんなに嬉しいというのか、この人は。
絶対に痩せてやる。その子の細められた目は、私にそう決心をさせるには十分すぎるくらいにゲスさを極めていたのだった。
――――――
「本っ当に!デリカシーの!かけらも!無い!」
「よし、あと10回だぞー」
部活終わり。私は獅音くんに足を押さえてもらい腹筋をしつつ、愚痴を聞いてもらっていた。こういうときに嫌な顔一つせずに付き合ってくれる獅音くんって本当に菩薩だと思う。
「一泡、吹かせたいっ…!!」
「一泡?」
「あの、ヘラヘラ顔を、真っ青にさせてやりたい…っ!」
50回の腹筋を終え、息を切らしながら天井を仰いだ。これで少しはカロリーも消費できただろうか。
「#NAME2#、俺に考えがある」
「え?」
上体を起こすと、獅音くんは相変わらずの菩薩のような顔でニコニコとしていたのだった。
――――――
「#NAME1#ちゃん、どう?ダイエットの進捗は?」
翌日。会うや否や早速そんなことを聞かれたのだった。
その後走って帰ったし、夕飯だっていつもの半分に抑えた。朝ご飯はその分しっかり食べちゃったけれども。
「ふーん?」
「!?」
そんなことを説明すると、天童くんは相変わらずニヤけた顔をしながら私の両頬を指で摘んできたのだった。
「うわぁ、モッチモチ〜」
「………!」
「感触サイコ〜」
「………!!」
「これがちゃんと“肝心なところ”にもついてくれるといいのにねぇ?」
「………!!!」
肝心なところ、ってどこだよ。恐らくひょっとしなくてもこれはセクハラ発言だ。身体が怒りと屈辱でわなわなと震え始めるのが分かった。いつもだったらここでボディブローの一つだってキメている。
でもそれじゃあダメだ。どうせ平然とした顔で“あれ、なにかした?”と言われるのが関の山だ。白鳥沢生の腹筋をなめちゃいけない。あの菩薩にも程がある獅音くんがいちマネージャーでダイエット目的でしかない私にいきなり平然と300回を言い渡してくるレベルだ。結局50回でそのまま終わったけれども。
一旦冷静になって、脳内にとっておきの映像を流したのだった。
「……へっ?」
途端、天童くんは一気に呆気にとられたような顔をしたのだった。
「ぐすっ…天童くん、なんで、そんな意地悪するの…?」
左右の頬には生暖かい液体が伝った。脳内では例のアライグマと例の少年が今まさに今生の別れを終えたところだった。
「えっ、なんで、泣っ…!?」
「ぐすっ…ラスカ…じゃなくて天童くんの、バカっ…!」
「へっ!?」
すると、天童くんは額に汗を浮かべながら目に見えてオロオロとし始めたのだった。
やっぱり獅音くんはすごい。こんな天童くん、初めてみた。むしろ私のほうに多少の罪悪感すら生じてきたくらいだ。しかして今まで受けてきた仕打ちを考えるとこの程度の反撃、それこそ可愛らしいくらいだと思う。それに今まで涙の一つも流さなかった私をいっそ褒めて欲しいくらいだ。
「ぐすっ…天童くんの、ゲス野郎…!!」
それにどっちみち、あの名作アニメは私にとって刺激が強すぎた。今更そんな若干の罪悪感程度ではこの涙も到底引っ込んでくれそうに無いのだ。
「ち、違うから!」
「…何がだよもー!!」
「俺は、たとえ#NAME1#ちゃんがあと30kg太ったところで、#NAME1#ちゃんのこと、す、好きだから…!!」
どういうわけか天童くんの顔は、真っ赤だった。
「ぐすっ…もう太らないしそれにだから一切のフォローになってないからそれ!!」
「え、えっ」
天童くんのそんな発言を受け改めてダイエット成功を決意したと共に、いい加減涙でぐっちゃぐちゃになっているであろう顔を両手で隠した。
すると天童くんのうろたえる声が聞こえてきた後、頭の上にぽすりと、大きな手が被せられたのだった。
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―――――――
200000Hit御礼短編 2/38
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