・狼少年の狼狽3(req)


「あ、あのね、天童くん、私・・・天童くんのことが好きなの」


なんということだ。
私は今、とんでも無い現場に立ち会ってしまっている。
思わず持っていたゴミ箱を地面に落としてしまいそうになった。
悪気なんて欠片も無かった。ただ単に、私は真面目に掃除当番の役割を全うしようと思っていただけ。ゴミ捨て場に向かう道が、ここしか無かっただけ。
それなのに、堂々と通過するにはあんまりにもな状況に、最悪のタイミングで鉢合わせてしまったのだ。しかも生憎、都合良い草むらや物陰なんてそこには存在していなかった。つまるところ私は、今その状況の渦中の人物であるはずの天童くんと、まともに目が合ってしまっていたのだった。
・・・気まずっ!!


「ありがとう、嬉しいよ」


しかして天童くんは私の存在なんて完全にスルーするかの如く、平然と対応をしていたのだ。あ、これはもしかして天童くん、私に気を遣ってくれたのだろうか。要は気にせず通れ、ということなのだろうか。天童くんにしてはなかなか気が利くじゃないか。
というかよく考えたら、校内の掃除当番がこぞって現れるはずのこんな時間のこの場所で、そんな青春の1ページを繰り広げるほうも繰り広げるほうだと思う。
だから私は決めた。そ知らぬ顔してゴミ箱をアピールしつつ通り過ぎる。そうだ、きっと、私のクラスにだって今や今やと私の帰りを、もといゴミ箱の帰りを待っている子だっているかもしれない。それはこの場の大義名分にしては、十分なものなんじゃないだろうか。
私は意を決して無表情を取り繕い、一歩踏み出したのだった。


「・・・でも、ゴメン。俺実は、」

「ホウッ!!?」


ところがどっこい、予想外の事態が起きた。また、思わずゴミ箱を落としそうになってしまった。
なんとその天童くんが、私がその横を通過しようとしたタイミングで私の腕を掴んできたのだった。そりゃあ奇声もあげて然るべき状況だと思う。


「この子のコトが好きなんだよネ、」

「・・・は」


ついに私は、ゴミ箱を地面に落としてしまったのだった。



_


「有り得ない!有り得ない!!有り得ない!!!」

「何がだ」

「天童くん!!」

「天童なら普通に有り得ている、というか存在していると思うが」


・・・・・・・。


「・・・ありがとう若利くん。ちょっと冷静になれた」

「?」


若利くんはきょとんとした顔で首を傾げていた。絶対王者とか呼ばれているのに癒し系って。うちの主将はとことんハイブリッドさんだと思う。
それにしても、本当にあのゲスモンスターの言動にはいい加減堪忍袋の緒も切れつつある。
結局その後、私は天童くんの手を振り払って自分でもわけの分からないことを喚き散らしながら、気まずそうな表情を浮かべる女の子を尻目にゴミを回収し、その場を去ったのだった。
さすがに冗談にしたって、これはルール違反だと思う。天童くんは通りすがりの私を、体の良い断り文句として活用したのだ。
断るのがきまずいのは分かる。でも、でも・・・!!


「あの、ゲス野郎・・・!!」


世の中には洒落で済まされることと、そうでは無いことがあると思う。
少なくとも私の18年そこそこで培った常識では、奴の今回の行為は明らかに後者に分類される。


「#NAME2#、飲むか・・・?」

「あ、えっ、あっ、ご、ごめん若利くん」


若利くんは、少し首を傾げながら私に向かってスクイズボトルを差し出してきたのだった。
私としたことが。あの若利くんに気を遣わせてしまったらしい。あの天然怪童に。
いや、純粋な子ども程大人の機微には敏感だとも言う。
私は若利くんの前で、なんて大人気ないことをしてしまったのだろう。
まぁ私と若利くんは同い年なのだけれども。


「#NAME2#」

「?」


気を落ち着かせるために若利くんから渡されたドリンクをがぶ飲みしていると、菩薩顔を浮かべた獅音くんから静かに名前を呼ばれたのだった。
なんだか今日はいつにも増して妙な迫力がある。


「一度天童に、本気で灸を据えてみないか?」

「・・・きゅう?」


獅音くんは相変わらず、ニコニコしていたのだった。


_


「あっ、#NAME1#ちゃんお疲れー!」


練習終了後、部室にていつもよりもゆっくりめに部誌を書いていると、天童くんが体育館から戻ってきたのだった。


「・・・お疲れ」

「あっ、そう言えば今日の#NAME1#ちゃんめっちゃ面白かったよー」

「・・・・・・。」

「というかタイミング良すぎるよねぇ!笑い堪えるの大変だったー」


天童くんはそう言ってケタケタと笑う。
普段であれば恐らく腸が煮えくり返って仕方の無いであろう彼のそんな発言に対しても、今は不思議と淡々と聞くことができた。
逆にどんどんと冷静になっていく自分がいる。そうかこれが涅槃という奴なのだろうか。


「えっ?もしかして#NAME1#ちゃん怒ってるの?なんで?」

「・・・・・・。」

「無視しないでよー!なんか、そんな態度とられるとさ、」

「・・・・・・。」

「・・・#NAME1#ちゃんって俺のこと好きなのカナ、って、勘違いしちゃうよ?」


天童くんはベンチに腰掛けTシャツを脱ぎ、不敵な笑みを浮かべたのだった。


「・・・天童くん」

「ん?」

「天童くんって、私のこと好きなんだよね?」

「へ?」


私は天童くんの目の前へと歩み寄った。そして薄ら笑いを浮かべながら、自らの制服のリボンに手を掛ける。
天童くんは、目と口を開けたまま固まっていた。なんだか妙に気分が良かった。


「じゃあさ、ちょっと楽しいコト、しませんか?」


天童くんのさらけだしにされた両肩を掴み、顔を超至近距離まで近づけてみた。
するとすぐ目の前に見える天童くんの眼は、一層見開かれたのだった。
我ながら決死の賭けだった。天童覚という人間の人となりを鑑みると、このまま私の提案に乗っかってきたところでなんらおかしくはないと思う。
天敵に対して自ら進んで貞操を差し出すなんて、私の行動はあまりにも滑稽すぎるし見方によってはさながら痴女のようだ。
しかし私には、状況がそんな最悪の方向には進まないという確固たる自信があった。
だって、なんと言っても、


「えっ!?な、なな何!?どうしたの!?どうしたの#NAME1#ちゃん!!?えっ!!??」


あの獅音くんが絶対大丈夫だと言ったんだから!


「あれー?天童くん、どうしたのー?」


天童くんは、顔を真っ赤にしてわなわなと震えながら「何!?何!!?」とひたすら繰り返していた。
目には涙すら浮かんでいた。
こんなに気分の良いことはあるだろうか。なんだか変な趣味に目覚めてしまいそうだ。


「あんなシーンで私の名前出してくるくらい、私のこと好きなんじゃないんですかー?」

「い、いや、あのね#NAME1#ちゃん、それはっ」


調子に乗ってきた私は、アドリブで天童くんの額に自分の額をくっつけてみた。
彼の額は信じられないくらいに熱かった。思わず口元が緩んでしまった。


「それは、何?」


征服感。高揚感。達成感。
私は今、あの天童覚というゲス・モンスターをたしかに追い詰めているらしい。
まさか天童くんが、実はこんなにウブな子だとは夢にも思わなかった。
こんな天童くん、一切怖くない。むしろ可愛らしいとすら思ってしまうくらいで、


「だから、#NAME1#ちゃんのタイミングがよすぎた、って言ってるでしょ!?」

「ふーん」

「だって俺、いつも告られて断るときは正直に理由言ってるもん!!だってさ、好きな子に告るって物凄い勇気いるんだよ!?その子のためにも誠心誠意対応したいじゃん!?そこに#NAME1#ちゃん本人が現れたらそうするしかないでしょ!?」

「?だからってなんで私引き合いに出すの」

「うわぁ!俺今すっごい恥ずかしいこと言ったのに全っ然伝わってない!!」

「何が」

「とっ、とりあえず離れて!!」


天童くんから両肩を掴まれ、一気に距離を離された。本当にこの子は腕が長い。
すると天童くんは、私の肩を掴んだまま立ち上がり、相変わらず潤んだ目で私を見下ろしたのだった。


「俺は、本気で#NAME1#ちゃんが好きだから!!」


そして半ば叫ぶように、天童くんはそんなことを言い放ったのだった。
普段のような得体の知れない不気味さは、その表情の中には一切無かった。なんだかまるで彼の言葉通り本気で言っているような、そんな印象さえ抱いてしまったのだ。
一瞬頭が真っ白になった。


「・・・天童くん」

「・・・ハイ」


私の両肩を掴む天童くんの手は、なんだか微かに震えていた。


「・・・この期に及んでまだそんなふざけたこと言うか!!!」

「ふぐっ!!?」


私は天童くんの顎に向かって、渾身の頭突きをかました。
すると私の両肩はようやく、天童くんから解放されたのだった。


「決めた!!私、引退まで何が何でも天童くんのそのゲスさ、なんとかする!!覚悟しときなよ!!」


じんじんと痛む頭頂部を抑えながら言い放つと、口元を抑えてしゃがみ込んだ天童くんはなんとも恨めし気に私を見上げてきたのだった。
そんな中、私は今まであまり感じたことの無い感覚に苛まれていた。
どういうわけか顔に熱が集まり、心臓はばくばくと鳴っている。
これは、なんなのだろう。
まぁ恐らく、この男への怒りが爆発したが故の興奮作用なのだろう。

だってそれ以外に、こんな感覚の心当たりは一切無いのだから。


.

_

200000Hit御礼企画
テーマ:「狼少年の狼狽」続編2/2

ALICE+