・あの次期エースが恋をしたそうです


その子はいつだって真っ直ぐで、純粋で。
何事にも一直線な姿は物凄く微笑ましいし、可愛らしいとも思う。しかもそれでいてバレーに向き合う姿は信じられないくらいに格好いい。熱いだけではなく、ときに味方である立場ですらぞっとしてしまうくらいに冷たい目も見せる。
とにかくいろいろと反則な子なのだ。


『#NAME1#さん!好きですっ!』


だから初めてそれを伝えられたときは、正直とても嬉しかった。心臓を完全に持っていかれてしまった。
ただ、その子はなんと言っても期待の1年生で次期エース。とにかくそんな恋だの愛だのにうつつを抜かしている暇は無いだろうし、何よりも私はその子の邪魔にはなりたくなかった。それをそのままの言葉で伝えて“ごめんなさい”と添えると、その子はキリッとした表情で“じゃあ、俺が一人前になるまで待っていてくれますか”と言ってきたのだった。
私はそれに心底ホッとすると共に、高鳴る心臓を抑えつつ頷いたのだった。

それがほんの、1ヶ月前のことだった。


「…なにこれ」


私は練習終了後、本日練習中に監督から各部員に指示のあった内容をノートにまとめていた。これは毎日記録しているものだったりする。
私はその作業中、ほんの数分だけトイレに行くために席を立った。ノートはそのままにした状態で。
そして戻ってきてそれを手に取ると、その表紙になんとも言えない違和感を抱いた。


「………ぷっ」


後ろから覗き込んできた川西くんが、それを見て吹き出していた。
表紙に書かれていた“記録:#NAME2# #NAME1#”という表記。その“#NAME2#”のところに二重線が引かれ、その上に至極綺麗な字で“五色”と書かれているのだ。


「そういえば、あいつ今さっきなんかゴソゴソやってたなー」


川西くんはニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。


「あっ!#NAME1#さん!探しましたよ!」


するとすぐに、その子が現れたのだった。


「五色くん…」

「はいっ!」

「これ、なに…?」


ノートを翳しながら問い掛けると、五色くんはニカッと笑って親指をぐっと突き立てたのだった。
うん、全然分からない


「そんなことより#NAME1#さんっ!」

「そんなこと…」

「俺今日、身体まだ動かし足りないので帰り道#NAME1#さんを終始お姫さま抱っこしてもいいですか!?」


五色くんは両手の平を天井に向け、なんとも邪気の欠片も無いきらきらとした笑顔で言ったのだった。


「やめて」

「なんでですかっ!?一石三鳥じゃないですか!!」

「…三…?」


するとその子はまるで、断られるだなんて一切想定していなかったかのように驚愕の表情を浮かべていたのだ。


「はいっ!俺のトレーニングにもなって、#NAME1#さんは楽で、しかも俺は幸せになれますっ!」


隣りの川西くんはついにぶはっと吹き出したのだった。


「#NAME2#、後輩が幸せになるってよ…」

「川西くん!?」


川西くんは口元を抑えてぷるぷると震えながらそんなことを言ってきたのだった。
そんなことを言われても、私にしてみたらそんな行為辱めでしかないのだけれども。


「…牛島さんも、#NAME2#に何か言ってやって下さい…」


そして川西くんは、相変わらず笑いを堪えたような状態で何故かロッカー前でぼーっとしていた牛島さんに話を振ったのだった。牛島さんはきょとんとした顔で一度小首を傾げてから、口を開いた。


「……とても効率的な、トレーニング方法だと思う」


牛島さんは無駄に精一杯言葉を選んでくれたらしい。


「本当ですか!?ありがとうございますっ!!」

「?」


五色くんはそんな牛島さんに対し、きびきびとしたお辞儀付きでお礼をしていた。牛島さんはまた首を傾げていた。


「では、#NAME1#さん!早速帰りましょう!」

「いやあの、だから」

「#NAME1#さんのカバン、これですよね?」

「!?」


五色くんは私のバッグの持ち手を腕に掛けると、私の膝の裏と背中に腕を添えた。
浮遊感が襲うと同時に、身体が五色くんの子ども体温で包まれた。


「ちょっ…!下ろし「ではお先に失礼します!お疲れ様でしたっ!」


五色くんは私の制止も聞かず、すぐに走り出したのだった。



『#NAME1#さんっ!このサーブは全て#NAME1#さんに捧げますっ!』


五色くんが100本サーブをしているときに偶々横を通りかかるとそんなことを笑顔で言われ、


『#NAME1#さんっ!さっきの奴らこらしめたので、もう大丈夫ですよっ!』


練習試合なんかで他校生に絡まれれば、何故か返り血を浴びながら物凄く無邪気な笑顔を浮かべていたり


『俺、#NAME1#さんのためならどんなことでもしますからっ!』


毎日10回くらいはそんなことを言われたり、



「#NAME1#さん、俺今、すっごく幸せですっ!」


そして五色くんは、人通りもまばらな帰り道を、放心状態の私を抱えながらいつものような眩しい笑顔を浮かべるのだ。


…うん、なんだろう。

恋愛って、思っていたのと全然違う。


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