・武器として、携えたるは瑠璃雛菊(req)


真っ直ぐに切り揃えられたサラッサラの前髪。それはまるでその子の人となりを表しているようで。
キラッキラと輝く大きな目。それはいつもうちのエースの背中に向けられ、虎視眈々と光っている。
ちょっと褒められれば分かり易く喜んで、ちょっと叱られれば露骨に落ち込んで。
うん。なんというか


「五色くん」

「ハイッ!」

「可愛い」

「なっ…!」


今日も今日とてついついこの子にとっての“禁句”を呟いてしまった。五色くんはわなわなと震えていた。チワワに見えた。
しかして私はいくらマネージャーとは言えど最高学年。礼儀礼節を滑稽な程にわきまえているこの子が、仮に私に何かをするなんてことはまず有り得ない。
つまりは私は職権を濫用することによってこの子に言いたい放題、やりたい放題できるのだ。


「五色くん」

「な、なんですか…!」

「しゃがんで」

「?」


その子は怪訝そうな顔をしながらも私の言うとおりにその場にしゃがんだ。


「…っ!サラッサラ…!」

「っ、ちょっ…!!」


そしてここぞとばかりにそのサラツヤな黒髪を撫で回した。そりゃあもうわしゃわしゃと。指と指の間をするすると通り抜けていくその感覚は、なんとも言えず気持ち良かった。


「なんなんですかもうっ!!」


しばらくすると耐え切れなくなったらしい五色くんはがばりと立ち上がった。そしてすかさず髪を整え始める。手ぐしですぐさま元に戻る髪質、本当に羨ましい。


「五色くん」

「なんですかっ…!」

「お手」

「なっ…!!!」


ついに五色くんの目にはうっすらと涙が浮かび始めた。胸がキュンとするとは、恐らくこんな感覚を喩えた表現なのだろう。


「#NAME2#」


せっかくの癒やしの時間に、邪魔が入った。げんなりとしながら振り返ると、そこには菩薩顔をした獅音くんが立っていた。


「やめなさい」

「えー」


私が全身全霊で拒否の表情と態度をとると、獅音くんは更ににっこりと微笑んだ。


「ひでぶっ!!」

「やめなさい」


こうして私は、相変わらず菩薩のような顔で微笑む獅音くんからいつものように平手打ちを食らったのだった。相手がそもそも菩薩なわけだから“女の子に手をあげるなんてサイテー!”という決まり文句なんかも通用しないわけで。


「五色」

「ハ、ハイッ!」

「#NAME2#に限ってはいっそ先輩だと思わなくていいから。やられたらやり返しなさい。」

「えっ!?」

「えっ」


そして菩薩様はそんなことを言ってのけたのだ。ハハハ、獅音くんってばまた、面白いことをおっしゃる。私なんて先輩という肩書きが無ければ五色くんにとっては吹けば飛ぶ路傍の小石にすぎない。しかもよりによって五色くんは純真愚直少年。本気でやり返されたら多分私は跡形も無くなる。


「分かったな、五色」

「え、あ、ハイッ!分かりました!」


なんとこの子、分かってしまったらしい。いよいよヤバいんじゃないか、私。
思えば五色くんの入部以降、その可愛らしさにやられた私は毎日のように何かとちょっかいを出し続けていた。
きっと五色くんのストレスだってなかなか溜まっているだろう。そんなタイミングで仕返しなんてされた日にゃ、前述のように私は木っ端微塵だ。
いやいやでもしかし、いくら五色くんと言えどそういう常識的なところはちゃんと分かっているはず。そうだきっと、先輩である獅音くんからそんなことを言われたからとりあえず反射的に答えただけだろう。うん、きっとそうだ。なんてったって五色くんだから、


「ということで#NAME2#さん!これからやり返しますねっ!」

「えっ」


ご丁寧に、挨拶付き。
これほどまでに五色くんのきらきらと輝く大きな目に、恐怖を抱いたことなんてあっただろうか。
五色くんはそんな私の心境なんて知らぬ存ぜぬとでも言うかのように、両手を翳し指をパキパキと曲げた。
あ、これ私死んだ。最早五色くんの凛とした表情からは狂気しか感じ取れなかった。


「ご、五色くん。良い子だから落ち着こうか」

「俺は落ち着いてますっ!」


私が一歩後退りをすると、五色くんは一歩前進する。仮にここで全力で逃げたとしても、私が次期エースに足でかなうわけが無い。
…仕方ない。腹を括ろう。元はと言えば私が悪い。誰が見たって私が100%悪い。
五色くんの手が徐々に迫る中、私は目をぎゅっと閉じ歯を食いしばった。



「……え」


しかし一向に痛みなんかは襲ってこない。恐る恐る目を開くとすぐ目の前に五色くんの胸があった。


「♪」

「は」


私は、五色くんに髪をわしゃわしゃされていた。これでもかと、執拗にわしゃわしゃと。


「は」

「…よしっ!#NAME2#さん、お手っ!」


五色くんは一通り私の髪をぐっちゃぐちゃにすると至極満足げに右手を私の前に差し出してきた。
とりあえず私はそっとそこに右手を乗せた。


「#NAME2#さんっ!」

「?」


わけも分からずに呆然としていると、五色くんは歯を見せてニカッと笑った。なんて眩しい笑顔なんだろう。


「#NAME2#さん、可愛いですっ!!」













「……〜っ!!」

「#NAME2#さん!?」


私は思わず顔を両手で抑えてその場に崩れ落ちた。
手で触れている頬は信じられないくらい熱いし、心臓はまるで今にも飛び出しそうなくらい跳ねているし、動機息切れも凄まじい。


「#NAME2#さん!?どうしたんですか!?大丈夫ですかっ!?」


息を切らしながら見上げた先で、五色くんは本気で心配をしてくれているような顔をしていた。ちなみにその後ろでは獅音くんが満足げに微笑んでいた。

私はこの日、度を越した可愛らしさは相手に致命傷を負わせる凶器なのだということを、身を以て体験したのだった。


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テーマ:五色くんの可愛さは凶器

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