・お目付け役は癒し系(req)


他人と比較される。学生という立場であるうちは、それが嫌だとわめいたところで結局のところ子どもの駄々にしかならないのだと私は思う。例えば本分である学業なんかにおいては、「点数」という目に見えて分かる差異も与えられるわけで。
それにしたって、比較対象があまりにもなチートであったとしたら、普通であればいい加減それに応えようとするのにも疲れて然るべきじゃないだろうか。そうだ。私はあくまで「普通」で、あの人は「普通じゃない」。そんな抜本から、次元からして違う二人の人間を比較しようだなんて、そもそもがおかしい話なのではないかと思う。
かと言って、前述のように私はそれに抗うことはできない。抗ったところで意味など無いのだから。しかし順応することもできない。
そうとなれば、私の選ぶ道なんて一つしかないわけで。


『最近家に連絡はしているか?』

『・・・うん』

『嘘を言え。昨日お前の親御さんから俺に連絡があったぞ』

『・・・・・・。』


ある日の休み時間。その人はわざわざ1年生棟にまで赴いて私にそんなことを伝えたのだった。
家長同士の仲が良く、幼少の頃から何かと接する機会の多かったその人。歳が近いこともあって、大人たちからしたら我々はそれぞれが格好の「比較対象」であったらしい。
冗談じゃない。なんでよりにもよってこんな天に一物も二物も与えられたような人間と比較をされなければならないのだ。それは幼少期から漠然と抱いていた不満だった。
私は、決してこの人という人間が嫌いなわけではない。ただ、今や劣等感の塊となりつつある私にとっては、仮に本人に悪意が無くとも紛れも無く常にそのきっかけであったこの人に対して、多少の苦手意識を抱くのも至極当然のことではないかと思う。


『もうお前も子供じゃないだろう。親に心配をかけるような真似をするな』


たしかに思い当たる節が無いわけじゃない。思えば入寮してからろくに実家へも連絡をしていなかった。反省はしているし、素直に申し訳無いとも思ってはいるけれども、かと言って「じゃあ連絡しよう」というような気には到底なれなかった。
私の親は「若利くんだったら、」という枕詞がもはや口癖のようになっていた。叱られるときなんて、その名前が親の口から出てこないことなんて私の記憶の限りでは一切無かったように思う。まぁそれ以外は、特に親への年頃らしい不満なんかも無かったりはするのだけれども。しかし、その唯一の不満が、私にとって最大のストレスでもあったのだ。
私はとにかく、一旦親元を離れたかった。実家には溺愛している柴犬もいたわけだけれども、その存在を鑑みても私のその意思は硬かった。
そもそも、中学時代に特に部活なんかに真剣に打ち込むことは無かった私が、それこそ血反吐を吐くような努力をして「学力」一本で寮の審査を通ったことだって、元はと言えばそんな決意故だ。
自分自身、至極幼稚な考え方だとは思っている。そもそもそんなことが可能な学校を選んだことで、必然的にその人と同じ学校に通うことになってしまった、という妙な矛盾も生じているし。でも、それでも、


『若利くんには関係ないでしょうが!!』


思わず感情的になり、そんなことを叫んだ。ただでさえ「有名人」であるその人の登場により静まり返っていた教室内。私の声は無駄に響いた。
そして当の本人は、きょとんとした顔をしていた。


『いや、関係あるだろう。現に俺にも連絡が来ている。』


その人はぱちぱちと二度瞬きをした後に小首を傾げてそんなことを呟いたのだった。
相変わらずの、天然ぶり。一気に全身の力が抜けるような感覚に陥った。


『・・・心配かけてすみませんね。気が向いたら連絡します』

『そうか。気が向くのは何時頃だ。』

『知りません』

『それでは困る。俺からも「#NAME1#からこの時間帯に電話がかかってくる」と伝えておこうと思っているからな。』

『必要ありません。放っておいて下さい。』

『・・・#NAME1#。』


間髪入れずにぶつけられる、どこか的を外した説教の数々。いい加減その対応も面倒になってきたところで、その人は持ち前の妙な威圧感を発しつつ私の名前を呟いたのだった。


『そうか。お前、反抗期か』

『は』


その人は、左手で拳を握り、それで右手の平をポンと叩いたのだった。なんというか、そのリアクションはおよそ現代っ子だとは思えない。まぁそれは今に始まったことでも無いのだけれども。でも反抗期だろうがなんだろうが、とりあえず放っておいてもらえればそれでいい。そもそも強ち否定もできないし。


『分かった』


そしてその人はそんなことを再び呟くと、ちらりと教室内を一瞥した後に何かに納得したように頷き、その場を立ち去ったのだった。
なんなんだ、あの人は。「分かった」って、何がだよ。



_


「というわけで#NAME2#さん!今日から隣の席、失礼しますね!」

「は」


どうしよう。状況が全く理解できない。どういうわけか今朝、私の席の隣にはいつもの山田くんとは違う男の子が座っていたのだ。こんな入学早々、席替えなんてした記憶は一切無い。


「大丈夫です!先生には相談済みです!」


どういうことだろう。ただただその子の顔を呆然と見つめていると、その子はドヤ顔を決めながらグッと親指を立てたのだった。意味が分からない。
別に隣の席が誰であろうが困ることはない。山田くんと仲が良くなったわけでもなかったし。でも、その子の机の上に堂々と開かれた、あの人が愛してやまないスポーツに関連するものであろう雑誌が、どういうわけか私の「イヤな予感」をこれでもかと煽るのだ。


「この五色工、全身全霊をかけて#NAME2#さんを見守ります!!」


五色くん、というらしいその子は、ハキハキとした口調でそんなよく分からない発言をかましてきたのだった。どういうわけかその目の中では火のようなものが燃えているのが見えた。


「五色くん。」

「ハイッ!」

「なんで?」


その子の礼儀正しさのお蔭で名前を知ることもできたことだし、私は状況の確認に挑んだ。何故か頬が引き攣るような感覚に陥ったのだった。


「中学時代から尊敬していて、且つ絶対に越えたいと思っている先輩から、『#NAME2##NAME1#を見守ってやってくれ。あいつが反抗期を迎えた今、あいつと同級生であるお前にしかこれを頼めない。』と頭を下げられてしまいましたので!」

「うん。とりあえず五色くんって何部?」


その「イヤな予感」は、自分の中で着々とその形を明確なものにしつつあった。


「バレー部です!!」


一気に全身が脱力した。まぁそもそも、バレー部以外にそんなことを言う人間がいたほうがむしろ怖くはあるのだけれども。
うん。とりあえず何してくれてんの若利くん。昔からずっと思ってきたことだけど、本当あなたの考えてることだけは私どう頑張っても分からないんだけど。
見守るって、なに。というかこの子もこの子で、そんな意味の分からない指示に対してよく同意したなぁ。
そこまで考えて、本格的にいろいろとめんどくさくなったのだった。


「あ、そう」


まぁ、言っても別に普段通りに過ごしていれば、これと言って特別に何かが起こるというわけでもあるまい。このただでさえセキュリティも無駄に整った学校において、私になんらかの危険が降りかかる可能性もほぼ100%無いだろうし。
とりあえず私は、完全にスルーを決め込むスタンスで行こうと思ったのだった。



_


「#NAME2#さん!」

「なに?」

「何かお困りのこと、ありませんか!?」

「?いや、特には・・・」


五色くんから唐突に投げかけられた言葉に、純粋に心当たりも無かったものだからそう返した。


「そう、ですか・・・」


すると、五色くんは目に見えてテンションを下げたのだった。
なんなんだろう。


「あ、そういえば#NAME2#さん!」

「え、なに?」


・・・と、思いきや。五色くんはすぐに表情をパアッと明るくさせながら再び真っ直ぐ私の顔を見てきたのだった。


「昨日は、何時に寝ましたか?」

「え、覚えてないけど」

「!!!!!」


五色くんからのこれまた唐突な質問に、反射的にそんな言葉を返した。すると五色くんは、今度はいかにも「ガーン!!」という効果音の似合いそうな表情をつくってみせたのだった。


「え、なに・・・?」


そしてあからさまに悔しそうな表情を浮かべるものだから、思わず声を掛けてしまった。


「俺、牛島さんからその確認は毎日するように言われていたんですけど、早速失敗してしまったので・・・!!」

「は」

「・・・くぅっ・・・!!五色工、一生の不覚・・・!!!」


うん。なに言ってるのこの子。


「なんか・・・ごめん」


しかしてそう呟いたその子は、なんだかあまりにも悔しそうに見えたものだから、私は反射的に謝ってしまったのだった。意味が分からないし、きっと傍から見たら私の姿も滑稽に見えることだろう。


「#NAME2#さん」

「は、はい」

「お願いが、あります・・・!!」

「?」

「今夜は、寝た時間を覚えていてもらえますかっ・・・!!」


そしてその子ときたら、今度は至極切実そうな表情を浮かべながらそんなことを言ってきたのだ。
なんで私が、わざわざそんなことを。それが率直な感想だった。だってきっと、この子は若利くんに報告することを前提としてそんな打診をしてきているのだ。仮に律儀に答えたとして、果たして私になんのメリットがあるというのだろう。むしろそんなの、若利くんに対して物凄く遠まわしに自分の生活を監視して下さいと言っているようなものじゃないか。
そしてそんなくだらないことを第三者の立場にも関わらずそんなに真剣に頼んでくる五色くんも五色くんだ。なんだなんだ。バレーをやる人って、天然ばっかりなんだろうか。
そんなことを思えど、


「うん、分かった」


私は、我に返ったときにはそんな言葉を返していた。・
なんというか、五色くんのそんな姿がどういうわけか実家の愛犬と被ってしまったのだ。私は、あの子にだけは甘かった。それこそ中学時代までは、ねだられるがままに日に何度だって散歩に連れていったくらいだったのだから。
すると五色くんは、一転してまたパアッと明るい表情をつくったのだった。再び、私が散歩用のリードを持ったときの愛犬の嬉しそうな表情が頭に過ぎった。


「・・・・・・。」


これは、ちょっとまずいんじゃないだろうか。


_


「#NAME2#さん!おはようございます!!」

「・・・おはよー」

「牛島さんからの伝言で、『1:00は遅すぎる。22:00には寝ろ』だそうですっ!!」


そんなことを言う若利くんの姿は、ムカつく程に鮮明に予想ができてしまった。
でも、


「・・・努力するよ。五色くん、ありがとう」

「礼には及びませんよ!!!」


お礼を言うと、どこか誇らしげに二カッと笑うその子の姿がやっぱり相変わらず愛犬っぽくて、どうしても私はそんな言葉を返してしまうのだ。
ともすれば、これも若利くんの計算の内だったりするのだろうか。
いや、あの人に限ってさすがにそれは無いと信じたいけれども。


「・・・・・・。」

「?」


そして今日も私は、イライラなんてそっちのけで、その子のサラッサラな髪の毛を容赦無く撫でまわしたい衝動とひたすら戦うことになるのだった。


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200000Hit御礼企画
リクエストテーマ:牛島さん幼馴染の五色くん夢

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