・+50cm/+50cmの川西くん

※川西くんキャラ大崩壊注意




「……っ…!!」


監督から、今度の練習試合の相手校との過去の試合のスコアを持ってくるように言われた。たとえ練習試合であっても決して手を抜かない鷲匠監督の徹底ぶりには敬服せざるを得ない。
しかして問題は、そのスコアのコピーが綴じられたファイルがラックの上から3段目にあることだ。この位置がまた厄介で、頑張ればお立ち台無しでも届きそうなのだ。私は変なプライドに苛まれ、とにかく必死に背伸びをして手を伸ばしていた。


「#NAME2#さん」

「うわっ!?」


すると、突如足が宙に浮いたのだった。目当てのファイルにはあっけなく手が届いた。


「…川西くん」

「ハイ」

「とりあえず、ありがとう」

「いえ」

「でも、川西くんが普通に取ってくれれば解決したんじゃないかな」


私はなんと、突如背後に現れた川西くんから両の脇腹を掴まれ、所謂“高い高い”の状態に持ち込まれたのだった。


「#NAME2#さん、めっちゃ頑張ってたんでそれは失礼かと」

「うん。川西くんの“失礼”の基準ちょっとおかしくないかな」


お世話になっておいてこんなことを言うのもアレだけれど、私にしてみたら高い高いのほうが遥かに屈辱的なのだけれども。
床に下ろされた後、川西くんを見上げると川西くんはニッと口元だけで笑った。


「顧問に頼んで、ラック全て低めのものに買い替えてもらいますか?」

「うん、いらないよ。この部の大半の人間一番上まで届くでしょ」

「だからこそ#NAME2#さんだけ届かないのとか可哀想じゃないスか」


川西くんは“アンタ一体何言ってんスか”と言わんばかりにきょとんとした顔をしていた。
川西くんはなんだかんだで白布くんのように露骨な悪気を見せない分、私にとってはたちが悪い相手だったりする。
なんだか身体がわなわなと震えるのを抑えられなかった。


「…そういう同情が一番残酷なんだよ川西くん!それにあとちょっとで届きそうだったし!」


なんだか先輩としてのプライドをズタズタにされたようで、思わず大きな声で抗議をしてしまった。視界は涙で滲んでいた。しつこいようだけれど結局プライドはもはやズタズタなのだから今更いろいろと先輩としての威厳がどうのこうのとは言っていられない。
一方川西くんは相変わらずきょとんとした顔を浮かべていた。


「いや、だいぶ距離ありましたけど」


とどめを刺された。


「か、川西くんのばかやろう!!」


私は思わず自分の目線よりも大分上にある川西くんの胸倉に掴みかかった。そして全力で川西くんを睨んだ。首がしんどい。
しかしてこの子は私に言ってはいけないことを言ったのだ。多少手段は大人気ないかもしれないけれども先輩として教育的指導をする権利と義務は、今の私にはあると思う。


「…………。」


川西くんはさすがにびっくりとした顔をしていた。
フフン思い知ったか川西太一。この私の先輩としての威厳と迫力を。


「え、えっ!?」


そう思った矢先、川西くんは突如膝を折って体勢を低くした。そしてあろうことか私の腰に腕を回し、ぎゅっと羽交い締めにしてきたのだ。


「…#NAME2#さん」


状況的には、私は川西くんに正面から抱き締められている形になった。川西くんは私の肩に頭を埋めたまま動かなくなった。
あれ、もしかしてこれ、川西くん落ち込んでる?私が本気で怒ったから、川西くん落ち込んじゃった?んで、今私は現在進行形で川西くんに甘えられてる?私ったら、自分よりも何十cmも背が高い後輩に甘えられちゃってるの?
なんだか心臓をガシッと掴まれたような気になった。なんだなんだ川西くん、後輩として可愛いところがあるじゃないか。


「えっ…?」


しかしその直後、突然の浮遊感に見舞われた。足が床を捉えていない。状況からすると、私は川西くんに抱き抱えられていることになる。


「さぁ帰りましょうか#NAME2#さん」

「な、何してるのかな川西くん」

「動くと落としてしまうので動かないで下さいね」


理解が及ばない。ほぼ同じ高さに見える川西くんの顔をまじまじと覗くと、川西くんは普段通りに無表情だった。
しかし気になるのは、川西くんの鼻からつつーと鮮血が一筋伝い始めたことだった。


「!?」


本能的に身の危険を感じて身をよじるも、がっしりと腰から背に回された川西くんの腕は力を緩めてくれる気配が無い。
相変わらず意味が分からずに途方に暮れていると、ドアのほうからガチャッという音が聞こえた。


「…川西、何をしている」


無駄に威圧的で迫力のある声。それに対してここまで安心感を抱いたことがかつてあっただろうか。


「牛島!助け「#NAME2#さんに泣きながら抱き付かれてしまったのでこのまま帰りますね」


川西くんが私の訴えを遮って発した言葉は、私自身一切見に覚えの無い内容だった。


「…なん、だと…?」


首だけを捻って牛島を見ると、今まさに牛島の手からタオルがひらりと落ちる瞬間だった。
牛島は目をカッと開いている。ただでさえ常軌を逸している目力でそれをされると迫力が物凄いのだけれども。


「これは不可抗力ですよね、牛島さん」

「ぐ、っ…!」


牛島の悔しそうな顔とか初めてみた。
というかそんなことを言っている場合じゃない。


「川西くん、下ろして」

「無理です」

「無理って何!?」

「俺の理性を買い被りすぎです」

「なんで理性に抵触してるの!?」


川西くんは相変わらず鼻血を垂らしながら涼しげな顔でそう呟いた。
なんだか漠然と、本当にヤバい人ってこんなかんじの人のことを言うのかなぁと感じた。


「…牛島。お願いがあるんだけど」

「なんだ」

「助けて」

「俺が助けたらお前は俺にも抱き付いてくるのか」

「いやだけど」

「そうか」


その後牛島はなんだかんだで私を川西くんから静かにべりっと引き剥がしてくれたのだった。


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