・+50cm/+青葉城西1


一触即発とか因縁とか、そういうのいちマネージャーでしかない私には一切分からない。しかもそのときはまだマネージャーになりたてだったから空気感とかも全然分からなかったし。しかしそんな私にだって分かることはあった。それは当時1年生にしてエースだったはずの彼が、十数分後には試合が始まってしまうようなそんなタイミングでロビーにて他校生に向かって睨みを利かせていていいはずがない、ということだった。
私は息を整えながら、青葉城西のジャージを纏う2名の人物と睨み合っていた牛島の腕を掴んだ。


『え、ウシワカちゃん。妹?』


そして頭上から降ってきたそんな失礼な発言に対して、まだ若かった私は一応形式上の睨みを利かせた。私はこのときしっかりと白鳥沢学園高等部排球部専用のジャージ(サイズXS※特注)を纏っていた。それなのになんだろうその言い種はと、反射的にイラッとしてしまったのだ。


『…いや、嫁だ』


そして牛島はあろうことか相変わらずの無表情で淡々とそんなことを言い放ったのだ。当時名前すら知らなかった青葉城西高校のその二人は、ポカンと口を開きながら牛島を見上げていた。
それが1年生のときのたしか春高予選。及川くんと岩泉くんに初めて会ったのは、このときだった。



――――――


「ねぇキミ、迷子?」


ロビーにて。試合前で変なテンションになっているチームメイトにいじられにいじられたため、奴らの目を盗んで休憩していた。試合まではまだ時間もある。別にこのくらい問題は無いだろう。
すると、青葉城西のジャージを纏った男の子に話し掛けられたのだった。


「えっ」


見たことの無い顔だった。青葉城西とは結構試合でも当たっているほうだと思うのに。となると、入部したての1年生なのだろうか。つまり私は、少なくとも彼らよりも年下に見られているということなのだろうか。


「?どうした、金田一」

「なんか小学生の女の子が人生に疲れ切ったような顔して座ってる」


小 学 生 の 女 の 子

ひょっとするとそれは私にあてがわれた代名詞なのだろうか。なんということだろう。
しかもたちの悪いことに恐らくこの子には一切の悪気は無いのだろう。いやむしろ、迷子疑惑のある子に率先して声を掛けるような親切心に溢れているくらいだろう。なんだか見るからにいい子そうだし。ただし私は高確率であなたよりも年上だ。


「金田一、この子白鳥沢のジャージ着てるから…白鳥沢の人の家族とかじゃない?」

「じゃあとりあえず白鳥沢の人呼んでくるか。さっきその辺にいたような…」

「やめて」


さすがに言葉を発してしまった。
そんなの絶対に奴らからからかわれる。天童あたりに大爆笑される未来が鮮明に見える。
二人の男の子はきょとんとしていた。
どうしよう。早いうちに訂正したほうが良いのだろうけれども。しかしなんと言えばいいのだろうか。私はこう見えて意外と他校生に対してはきちんと気を遣っている節がある。だって腐っても白鳥沢は名門チームだ。少なくとも対外的には礼儀礼節だってしっかりしているべきでしょう。
しかしてどうしたっていい表現が見つからない。“私実は3年生なんだよアハハ”って軽くいこうか?それだとあまりにも私が不憫すぎやしないだろうか。でもかと言ってブチ切れ気味に行くのは言語道断。さてどうしたものか。


「国見、金田一。どうしたー?」

「あ」


そうこうしているうちに事態は悪化の一途を辿っていく。


「岩泉さん!なんかここに、迷子の小学生が…」

「は?小学せ…」


岩泉くんは私の姿を確認して一瞬口をあけたまま固まっていた。恐らく私も岩泉くんと同じ表情をしていたと思う。


「ちょっ…えっ、あ…」


私の予想にしか過ぎないけれども、岩泉くんは反射的に後輩二人に注意を入れようとしたのだと思う。でも恐らく、私本人がいる手前言葉選びに悩んだのだろう。その証拠に彼は目に見えてうろたえていた。
なんだか、岩泉くんっていい奴なんだなぁと思った。


「あっ!#NAME1#ちゃんじゃーん☆」


そしてとうとう、私は詰んだのだった。


「ちょっ、待て、及川…!」

「久しぶりー☆元気してた?フフン、相変わらず文字通り犯罪的に可愛いね!とても高校3年生とは思えない可愛らしさ!#NAME1#ちゃんがマネージャーってだけでだいぶ白鳥沢の好感度も上がってくるよね〜☆」


そして彼らの主将は、そんな私と岩泉くんの気遣いを全て嘲笑うかのように、地雷を根こそぎ踏みまくった挙げ句私の頭をこれでもかと撫でてきたのだ。


「…悪い…#NAME2#…」


岩泉くんは謝りながら両手で顔を覆っていた。
1年生(恐らく)の2人はポカンとしていた。


「お、及川くんも、元気そうで、何より…」

「?」


どういうわけか、反射的に目に涙が浮かんできたのだった。


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