・+50cm/+43cmの五色くん(req)

※白鳥沢生キャラ崩壊注意


「#NAME2#さん!」

「?なに、五色くん」


朝。部室に着くや否や、目を輝かせた五色くんが私に詰め寄ってきたのだった。


「あの、いきなりですが!!」

「な、なに」

「#NAME2#さんの頭、撫でてもいいですか!?」


そして本当にいきなり、そんなことを言ってきた。


「は」


全く意味が分からなかった。五色くんは、両手の拳を握りながら物凄く活き活きとしている。
いくらただ頭を撫でるだけという行為であっても、そんなテンションで言われてしまったら身構えて然るべきだろう。何を言っているんだこの子は。そしてそもそも、私は何が悲しくて2つも年下の後輩から頭を撫でて貰わないといけないというのだ。


「昨日寝る前、ふと#NAME2#さんの頭を撫でたくなったんです!」

「うん。昨夜キミに何があったの?」

「#NAME2#さんの髪って、なんかふわふわしてるじゃないですか。触りたいなぁと思ったんです!」

「たしかにキミに比べたらサラサラはしてないかもしれないけど」


なんか、怖かった。
こんなことを言ってしまうと先輩として情けないかもしれないけれども、私はある意味ではあのモンスター以上に五色くんが苦手だったりもする。もちろん嫌いなわけじゃない。むしろいつもいつも全力で、しかも先輩に対して素直なところには物凄く好感も持っている。
ただ、


「だめ、ですか…っ!?」


五色くんは、少し目を潤ませながらそんなことを言ってきたのだった。


「い、いや、だめじゃないけど…」


そう。この子の厄介なところは、ひたすらに先輩キラーなところだ。ストレートに言うと、物凄く可愛い。この子と話していると、いかにこの子がぶっ飛んだ発言をしたところで、怒ろうとしても母性本能がそれを阻止してくる。
そして何よりも、絶対に無意識なのだろうけれども、この子の仕草やら表情の変化等からはまるでそれらを全部踏まえたうえでの確信犯の所業のように思えてしまうのだ。


「え、いいんですか!?」

「ど、どうぞ…」


そして五色くんは、おずおずと私の頭に手を置いたのだった。なんだか目が更にきらきらとしていた。
くそ、可愛い。


「……!フワフワしてます…!」

「そ、そう」


うん。なんなんだこの状況。1年生に意気揚々と頭を撫でられて、苦笑いをしている私。よく分からなかった。


「俺、今日も頑張れそうです!ありがとうございました!」

「え、あ…それはよかった」


まぁ五色くんがそう言うなら、いいんだけれども。
きっと今、このチームで一番監督から厳しい扱いを受けているのは他でもない五色くんだ。こんなことで五色くんのモチベーション維持に対して一役買えるのだったら、マネージャーとしては進んでやるべきなのだろう。
でも、そんなに単純でいいのか、五色くんよ。いや、そこも可愛らしいんだけれども。


_


「!!?」


そして練習終了後。備品の整理を終えて部室に戻ると、五色くんがベンチの上で抜け殻のように横たわっていた。
たしかに今日も、監督は五色くんに厳しかった。この私が終始ハラハラさせられるくらいには。きっと私が五色くんの姉か何かだったら、監督に掴みかかっていたかもしれない。私はモンスターペアレント予備軍だったのか。


「#NAME2#、さん…お疲れ、さま、です…」


「お、お疲れ…」

「こんな、体勢で、すみません…!!」


そしてそんな状態でも、先輩に対しての挨拶や礼儀は忘れない。なんて真面目で健気な子なのだろう。もしかしたら、意図的なものではなくすっかり身体に染みついたが故のクセのようなものかもしれないけれども、思わず目頭が熱くなったのだった。


「…五色くん」

「ハイ」

「ちょっとだけ、起きれる?起きれるならとりあえず着替えよ?風邪ひいちゃう」

「…#NAME2#さん、あの、大変恐縮なのですが、」

「なに?」

「着替えさせて、もらえませんか…!!」

「は」


うん。なに言ってんのこの子。後輩とは言え、何故私が高校1年生の、しかも自分よりもはるかに背の高い男の子のお着換えを手伝わないといけないんだ。
反射的にそんな主張が頭に浮かんだ。私も主に同級生組には普段毅然と、もとい辛辣に当たるようにしているから、それが癖になってしまっているのだろうか。
でも、どういうわけか、そんな冷めた思考とは裏腹に、心臓のあたりがガッシリと掴まれたような感覚に陥ったのだった。どうも母性本能というものは、私の場合脳ではなくて心臓のほうに備わっているらしい。


「…ありがとう、ございます…!!」


その後私は、五色くんのロッカーからTシャツを引っ張り出し、即座に五色くんを脱がせた。今更この子たちの裸を見たところで何の感情も生まれないけれども、改めてその身体を見ると数か月前の入部当初よりもだいぶたくましいものになっているような気がした。またどういうわけか目に涙が浮かんだ。いつも本当に頑張ってるもんね、五色くん。


「あと何か、できることある?」

「………!なんか今日、#NAME2#さんお優しいですね…!?」

「今日だけだけどね」


そして私は五色くんにTシャツを着せると、ほぼ無意識にそんなことを口走っていた。
今日ばかりは、この子を甘やかしてあげても誰も咎めまい。基本的には、部員には普段は必要最低限のこと以外はしないようにしているのだけれども。部員のメンタル強化の観点もとい、絶対面倒なことになるのが目に見えているからだ。


「では、#NAME2#さん…!!」

「?」


すると五色くんは、一転して目を輝かせながら私にずいっと詰め寄ってきたのだった。
あれ、なんかこの子思ったより元気そうなんだけれども。
そんなことは思えど、やっぱりなかなかどうして可愛い。そんな表情を見ていると、なんだからしくもなく「なんでも言って!」と言ってしまいそうになるものだから、本当にこの子はたちが悪いと思う。


「ひざまくら、してもらえませんか…!?」

「うん。それはやだ。」


前言撤回。なに言ってんだこの子。
とりあえず私は、部の備品である洗い立てのタオルを数枚たたんで重ねた。枕としては、きっとこれで十分なはずだ。むしろ私の脚よりもずっと寝心地は良いことだろう。
無言でそれを五色くんに差し出すと、その子は「ガーン」という効果音が至極似合いそうな表情を作ってみせたのだった。


「どうしても、だめですか…!!?」

「タオルいいじゃんタオル。ふっかふかだよ?」

「感触的な問題じゃなくて、精神的な問題なんです…!!」

「私の洗ったタオルに精神的な不安でも?」

「そういうことじゃ、なくてですね…!!」


五色くんは一向にタオルを受け取ろうとはしなかった。何かを言おうとしているのだろうけれども、恐らく言葉が見つからないのだろう。ただ口をぱくぱくとさせながらただただ切実な表情で私を見てきたのだった。
そんなボキャ貧なところも可愛らしいけれども、それとこれとは話が別だ。私だってそこは譲らない。


「…#NAME2#さん…」

「なに」


そして五色くんは、消え入りそうな声で私の名前を呼んだのだった。


「…やっぱり、だめですか…っ!?」

「………!!!」


五色くんは、その大きな目をチワワよろしくうるうるとさせながら、そんなことを呟いたのだった。更に五色くんは今、ベンチに腰掛けているわけだから、私からは自ずと上目遣いに見える。


「#NAME2#さん…」


そして声色も、どういうわけか今にも泣きだしそうなものだったりもするのだ。

………。


「ご、5分だけ、なら…」

「………。」

「じゅ、10分」

「!本当ですか!?嬉しいです!ありがとうございます!!!」


…負けた。完敗だ。
でもこれは、生物学上女としての不可抗力だと思う。ただでさえ可愛らしい年下の男の子に、そんな顔をされて無碍にできる女性が果たしているのだろうか。
半ば項垂れながらベンチに腰掛けると、五色くんは即座に私の太腿に頭を乗せてきたのだった。


「…俺、明日も頑張れそうです…!」

「……そ、そう……」


うん。それに越したことは無いのだけれども。でもなんだろう、この虚無感。
ともすればやっぱりこの子は、牛島や天童よりも私にとってはずっとずっと強敵なんじゃないだろうか。少なくとも、この子にはどういうわけか勝てる気がしないのだ。いや、勝てる気がしないというよりはこの子を「負かす気がしない」というほうがニュアンスとしては正しいだろう。
これ私、詰んでいないだろうか。


「お疲れ様で……………は?」


そんな状況の中、部室には白布くんが戻ってきたのだった。
我々の状況を確認するや否や、ぽかんと固まっていた。そしてその手からはひらりとタオルが落ちたのだった。


「ちょっ…五色!!お前何やってんだよ!!そして#NAME2#さんも、なんでその状況に甘んじてるんですか!!?」

「聞かないで」

「あ、白布さん!お疲れ様です!」


我々に詰め寄る白布くんに対して、五色くんは横になりながらとても元気な声で溌剌と挨拶をしたのだった。
白布くんは我々を交互に見た後に、わなわなと震え始めたのだった。あ、これ私、白布くんに「甘やかすな」って怒られるパターンだろうか。よりによって早速次期部長に見つかってしまうだなんて。とりあえず苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「#NAME2#さん!それはえこひいきです!!」

「え」

「マネージャーは、部員全員に平等じゃないといけないと思います!」

「あ、ハイ。スミマセン…」

「なのでその後俺にもして下さいね!!?」

「は?」

「あと、言っときますけどそいつ絶対確信犯ですからね!?そう見えて強かな奴ですからね!?」

「え」


うん。なんというか。
来年白鳥沢、大丈夫だろうか。
次期部長と次期エースの顔を交互に見ながら、漠然とそんな不安を抱いてしまった。
ちなみに次期エースのほうは、なんだか物凄く幸せそうな顔をしていたのだった。

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