・+50cm/+夏合宿(req)
※白鳥沢生キャラ崩壊注意
「…………。」
夏合宿。
比較的遠征や合宿も多い白鳥沢学園男子バレー部の年間行事の中でも、最も大規模なものの一つだったりする。とにかく、日程が長い。10泊11日て。その期間の着替えだけでもためしに積み上げてみたところ、私の身長をゆうに超えてきたくらいだった。
しかも、うちは部員の人数も多いものだから、練習場所の体育館も2か所に分かれていたりする。だから私はそのときの対戦校のマネージャーの有無なんかを考えつつ、その2か所を自転車で行ったり来たりすることになる。
「…やっぱり子ども用の自転車のほうが良かったか…」
その自転車は鷲匠監督が直々に用意してくれたわけだけれども、サドルをぎりぎりまで下げても私の両足の裏はとうとう地面についてくれなかったのだった。鷲匠監督が、らしくもなくどこか申し訳なさそうにそんなことを呟くと、一呼吸置いて天童の馬鹿笑いが響いた。
「いえ、大丈夫です…。こういう自転車、乗り慣れているので…」
言っていて、物凄く悲しい気持ちになった。そんな私の心境を察してくれたのか、鷲匠監督もどこか物寂しそうな顔をしていた。余計に辛くなった。
「監督。そんなこともあろうかと用意してきました。」
そんなやり取りをしていると、先ほどから腕を組んで我々を凝視していた牛島が近寄ってきたのだった。
その両手には、どういうわけか補助輪が握られていた。
………。
「…#NAME1#」
「はい。なんでしょう監督」
「お前はどうしたって10日間、何が何でも朝から晩までこいつらの世話しなきゃなんねぇんだ。だから、移動中は休憩時間だと思ってゆっくり時間かけろ。最悪試合開始に間に合えばいい。」
「…お気遣い、ありがとうございます…」
いつになく優しい監督のそんな言葉に、なんだか涙すら浮かんできたのだった。
「せめて後輪にだけでも付けたほうがよくないか…?」
「牛島キミ前輪にも付ける気だったの!?」
鷲匠監督は、盛大なため息を吐いていたのだった。
_
「………。」
その日、片方のチームの練習試合が終了したため、相手校を見送ってから私は監督や牛島たちがいるほうの体育館に向かっていた。こちらの練習試合の開始までは、あと1時間半程。自転車だと15分程度で到着してしまうことを考えても、しばらく余裕がある。下手に早めに行って牛島たちによく分からない絡み方をされても疲れるから、私はここで適当に休憩でも入れようかと思った。しかして今、走っているのは山道。時間を潰すことのできるようなツールなんてあるはずもない。それに街中よりはずっと涼しいとは言え、なかなか暑い。やっぱりさっさと体育館に向かったほうが良いのだろうか。いや、そもそももう少しあちらのチームのほうでゆっくりしてくるべきだった。失敗した。
「………ん?」
そんなことを考えながら自転車を走らせていると、どこからともなく子どものはしゃぐ声が聞こえてきたのだった。え、なにこれ怖いんだけど。そんなことを思えど、どういうわけか好奇心が疼いた。
自転車を止め、あたりを確認すると、小道のあたりに木製の看板を見つけたのだった。
「『ふれあい動物園』…?」
私は迷わず、その小道へと入ったのだった。
_
「………っ!!!!」
その小道の先には、天国があった。
個人の方が趣味でやっているようで「動物園」と銘打つには些か小規模ではあるけれども、そこには無数のうさぎやら猫やら、犬やらがいた。なんだか久しく見るような、自分よりも小さな生き物たち。それだけで愛しさがこみ上げてきたのだった。
なんだか私、合宿頑張れそうな気がする。ふわふわとしたうさぎの背を撫でながら、私はそんなことを感じたのだった。
ただ、一つ気になることがある。
「……あのさ、」
「?なんですか、#NAME2#さん」
「うん。なにしてるの白布くん」
何故か、隣に白布くんがいる。ちょっと意味が分からなかった。
だって今この子たちは、間違いなく練習の真っ最中なんじゃないだろうか。それなのに何故、スタメンであるこの子が今この場にいるのだろうか。
いや、百歩譲ってその点はいい。いくら監督から直々にお許しも頂いていたとは言え、練習中に油を売っているのは私だって同じなのだから。それにロードワークや休憩の合間にたまたま、という可能性だってある。白布くん、なんとなくうさぎ似合うし。白いやつ。
でもスルーし難いのは、白布くんは今、うさぎでも猫でも犬でもなく私の頭を撫でている点だった。
「牛島さんが、ロードワーク中に迷子になりました」
「合宿の風物詩だね。そこは別にいいけど、折角ならうさぎとか撫でなよ」
「?ここぞとばかりに#NAME2#さんと触れ合える機会なのに、何故敢えてうさぎを?」
「うん。なんでキミ、ナチュラルに先輩を小動物扱いしてるの?」
「?#NAME2#さん、ちっさいじゃないですか」
「………。」
白布くんは、いつも通りのテンションでそんなことを言ってのけたのだった。いつにも増してどストレートだ。反射的にぶん殴りたくなったけれども、きっとこの子も疲れているのだ。それに何より、現在進行形で我々の学年の人間にも迷惑をかけられているわけだし。だから私は何も言えなかった。
「あ、#NAME2#さん」
「…なに」
「『触れ合い』なので、俺に触ってくれてもいいですよ」
「は」
「どこでもどうぞ。なんなら脱ぎますけど」
「………。」
やっぱりこの子、相当疲れている。
私はとりあえず、その頭を撫でてみたのだった。思いの外サラサラしていた。
すると白布くんは、私のそんな行動が予想外だったのか目を見開いて固まっていた。
「#NAME2#さん…!」
「え、ちょっ…!!」
するとその直後、白布くんにがばりと抱きしめられたのだった。あ、失敗したかもしれない。
「俺、頑張ります!頑張って牛島さん探します!!」
「え」
しかして私の嫌な予感に反して、白布くんは私をすぐさま解放し、溌剌とした声と笑顔でそんなことを言ったのだった。そして拳をぐっと握り、どこかへ走って行った。
やっぱり白布くんは、元来真面目な子だったらしい。ホッとしつつも、その背中はなんだか無性に頼もしく見えたのだった。
頑張れ次期主将。私は人知れず、その背中を見送りながら心の中でそうエールを送った。
「…で、とりあえずさ」
「ん?」
「キミがいると全然動物寄ってこないんだけど」
「すごいねー野生の勘って奴だネ」
そしてしばらくした後、今度はどういうわけか天童に頭を撫でられていた。
直前まで私の周りにわらわらといた小動物たちは、一目散に逃げていった。その後もちらちらとこちらを窺っている彼らは、どういうわけか小刻みに震えているような気がする。
うん。ゲス・モンスターはんぱない。そしてそれを自分で言うのか。
「あと、頭撫でるのやめて」
「?あ、ゴメーン!うさぎか何かかと思ったー☆」
「………。」
「でもさ、実際#NAME1#ちゃんってあのコたちとそんなにサイズ変わらないよね?間違えちゃっても仕方無いよネ」
「………。」
「ちょっとピョンピョンって言ってみてよ#NAME1#ちゃん!」
天童はニタニタと笑いながらそんなことを言ってきたのだった。
きっとこれ、殴ってもいいやつだと思う。というかうさぎの鳴き声ピョンピョンじゃないし。
でも、なんだか合宿初日からこの子とまともにやり合うのは、明らかに体力の無駄なような気がしてならなかったのだ。
「天童」
「なにー?」
「牛島見つからなかったら、今日は天童にレフトやらせるって白布くんが言ってたよ」
「なんで俺!!?」
天童は「ガビーン」という効果音が似合いそうな表情を作ってみせたのだった。ちょっとスカッとした。
そんなのもちろん嘘だ。そもそもなんでMBの天童がWSのポジションを担わなきゃならないというのだ。そして天童が抜けた分、MBのしわ寄せは全て川西くんへと向かうのだろう。でもそういう前提を考えると、白布くんはともかくむしろ監督のほうがノリノリでやってのけそうだ。たまにはそういう方向のスパルタだって、あってもいいんじゃないかと思う。
「とりあえず俺、若利くん探しに行く!!」
天童はそう言って、走り去って行った。
恐らく天童のことだから、私のそんなウソなんてすぐに見抜いたことだろう。でもやっぱり、あのスパルタ監督であればそんなこともやりかねないことにだって気付いたのだろう。
とりあえず、天童が去ったことで動物たちが再びこちらへ寄ってきた。一瞬で癒されたのだった。
「#NAME2#、若利見なかったか?」
「うん。見てない」
「そうか…」
「というかなんでキミもナチュラルに私の頭撫でてるの、山形」
「え」
完全に無意識にそんなことをしてくる部員もいれば、
「#NAME2#さん、ニンジン食べます?」
「うん。それどっから持ってきたの川西くん」
悪意を一切隠すことなくそんなことを言ってくる部員もいて、
「#NAME2#さんが一番可愛らしいですよ!!」
「なんで私小動物と比較されてるの五色くん」
そんなこんなで、入れ替わり立ち代わり部員が現れては、何故か私の頭を撫でた後に立ち去って行ったのだった。
五色くんが立ち去った後、だいぶげんなりしながら時計を確認すると、もうなかなかいい時間だった。そろそろ私も体育館に向かわなければ。
最後に一通り、近くにいた小動物たちを撫でていると、ふと彼らの雰囲気が変わったような気がしたのだった。各々走り回ったり、飛び跳ねたり、寝たりしていた小動物たちは、どういうわけか一瞬で目の色を変えて全員同じ方向を向いていた。
「………?」
そんな異様な光景を怪訝に思い、私は彼らの視線の先を追った。
「#NAME2#。体育館が、消えた」
「は」
その直後、その場にいた小動物たちは、もれなく全頭その絶対王者に向かって駆け寄って行ったのだった。
「……神隠し、という奴だろうか」
「とりあえずもっと他に気にすることあるんじゃないかな」
牛島は、頭からつま先まで完全に小動物で埋まっていた。うん、なんなのその謎スキル。
その表情は全く見えないわけだけれども、そんな中でも牛島はきょとんとしながら首を傾げたような気がしたのだった。
うちの主将は、やっぱりチートらしい。
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「なんで一本道で迷うの」
「迷ったんじゃない。道が急に変化したんだ」
「もしかして牛島って意外とジブリとか好きだったりする?」
その後私は、走る牛島に並走する形で自転車をこいでいた。牛島の頭上には終始クエスチョンマークが浮かんでいた。
これ、ロードワーク中には1年生あたりを常に並走させたほうがいいんじゃないだろうか。
「ときに#NAME1#」
「なに」
「せめてヘルメットとサポーターは付けるべきだ」
「いやあの、私中学まで普通に自転車通学してたからね」
「そういう問題では無い」
「!!?」
するとその直後、私は牛島に担がれたのだった。
俄かに状況が理解できなかった。だって私は今、自転車に乗っている。ということはつまり、牛島は自転車ごと私を担いだわけで、
「思いの外軽いな。#NAME1#、ちゃんと乗っているか?」
「乗ってるけど!!」
「よし」
「よしじゃない!!あのさ牛島!私いつ落ちるか分からないよ!?」
「俺の目の前でお前に怪我をさせるわけにはいかない」
「あのさ!こっちのほうが自分でこぐよりずっとリスク高いよ!!?お願い気付いて!!!」
私はその後、体育館に到着するまで必死で自転車にしがみ付く形となったのだった。
うん。
やっぱり10日間とか、私には絶対無理。
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テーマ:白鳥沢インふれあい動物園