・敵と王子様は水面下(川西白布ある意味天童)


昔から、全てを真に受け易いことがコンプレックスだった。他人の表情は凄く窺ってしまう割に、その発言が冗談なのかはたまた本気なのか判断が下手。


「ねぇねぇ#NAME1#ちゃん」

「なに?天童くん」

「今日の下着何色?」

「え、と…」


真剣な顔で聞かれると、全部が全部本気だと受け取ってしまう。いかにくだらないような質問でも、もしかしたらその人にとって可及的に回答が必要なんじゃないかと受け取ってしまう。
そんな私は天童くんからの質問に対して、今朝身に付けた下着の記憶を必死に探っていた。でも見つからなかった。仕方ないから確認をしようと、自分の襟首に手を添えた。


「ひでぶっ!!?」

「?」


その時点で、天童くんのなんとも古風な悲鳴が聞こえてきた。


「………。」

「いったぁー…」


そこには頭頂部を抑えてしゃがみ込む天童くんと、その背後で拳を握りながら至極冷めた表情でそんな天童くんを見下ろす川西くんの姿があった。
状況的には川西くんが天童くんの頭頂部を殴ったんだろうけれども、あの大人しくて冷静な川西くんがどうして先輩である天童くんに対してそんな行動に走ったのか皆目見当もつかなかった。


「て、天童くん…」

「ごめん、#NAME1#ちゃん…」


そして唐突に謝られた。なんだなんだ。なんなんだろう。


「水色、だったよ…?」


とりあえず私は、今ほど襟首の隙間から確認したことを報告した。
すると川西くんの冷めたような視線はぱっと私に向けられたのだった。


「青い、小花柄の…」


そこまで言ったとき、川西くんの眉間には深い皺が寄った。背中に冷や汗が伝ったのだった。天童くんはぼそりと「ありがとう…」と呟いていた。川西くんはまた天童くんを睨んでいた。



*************



「ねぇねぇ#NAME1#ちゃん」

「なに?天童くん」

「#NAME1#ちゃんって彼氏いたことある?」

「無いよー」


もはや日常と化している、天童くんからの唐突な質問。今回のそれについては間を置く余地もなく即答した。
だって中学の頃は毎日勉強勉強だったし、高校に入ってからは毎日部活部活。そんな存在をつくる余裕なんて無かった。まぁ仮に余裕があったとしたって、そんなのなんだか照れくさくて私には無理なんだろうけれども。そもそも好きな人もいないし。


「じゃあ#NAME1#ちゃん、処女?」

「しょじょ?」


脳内で“しょ、しょ、しょーじょーじ♪”という例の狸囃子が流れ始めた。なんて懐かしい。いや多分これは違うだろう。それでもそんな言葉、果たして学校で習っただろうか。昔から国語の授業はそんなに苦手では無かったはずなのに。


「ぐほっふッ!!」

「?」


脳内で検索をかけていると、天童くんのくぐもった悲鳴が聞こえたかと思いきや、天童くんは頬を抑えて倒れていた。
そして川西くんが静かな音を立てて地面に着地する瞬間だった。状況的には川西くんが天童くんの頬に回し蹴りをキメたところだと思うんだけれども、基本的に温厚な川西くんが天童くんにそんなことをする理由に皆目見当がつかなかった。男子特有のプロレスごっこというやつだろうか。川西くんたら意外とアグレッシブだなぁ、なんて微笑ましく思いながら先ほどの言葉の意味を調べようとポケットからスマホを取り出した。


「……あ。」


しかし私のスマホは手の中から忽然と姿を消した。
恐る恐る顔を上げると、そこには相変わらず冷めた表情をした川西くんが私のスマホを持っていたのだった。


「#NAME2#さんはまだ知らなくていい言葉です」

「え」

「調べる必要はありません」

「でも」

「調べないで下さい。お願いします。」


私は、後輩からの“お願い”に滅法弱い。しかもよりによっての川西くんだ。普段川西くんからお願いをされるようなことなんて基本的には無いから、なんだか退っ引きならない事情があるのだと感じた。


「わ、分かったよ川西くん!私、絶対に調べない!約束する!」

「そうですか。よかったです」


川西くんは淡々とそう言うと、すぐに私にスマホを返してくれた。


「調べる間もなく太一が教えてくれるらしいよー。良かったネ#NAME1#ちゃん」

「え、そうなの川西くん!?」

「うん!しかも実技付き。」

「説明に実技が必要なの!?」


驚愕しながら川西くんの顔を見上げると、川西くんの額にはくっと血管が浮いていた。


「ちょっ、ゴメン太一!ほんのジョークだって!」


そして川西くんはごきりと指を鳴らしながら天童くんに再び歩み寄って行ったのだった。




************


「#NAME2#さん」

「なに?川西くん」

「お願いがあります」

「え?」


振り返ると、そこには神妙な面持ちをした川西くんが立っていた。


「今後天童さんの言うことは、全てスルーして下さい」


川西くんは私の目を見据えながらそう言った。普段“川西お前目に覇気がねぇよ!”と瀬見くんに言われがちな川西くんだけれど、どういうわけかその目は真剣そのものだった。


「な、なんで?」


突然の剣幕に若干怯みながら、恐る恐る聞いてみた。すると川西くんは一つ大きく溜め息を吐いた。


「俺が困るんです」


…どういう理屈だろうか。
いやいやでもしかし、天童くんからの質問に真面目に答えてしまうとなんらかの形で川西くんに迷惑がかかってしまうという事実がたしかにあるらしい。
これは先輩として、由々しきことだと思う。


「ご、ごめん川西くん!私、川西くんに迷惑かけてたみたいで…!本当に申し訳ない…!!」


とりあえず謝ってみると、川西くんは一瞬目を見開いた後、また大きな溜め息を吐いた。


「…いいんです。#NAME2#さんはそのままで」

「えっ」

「悪いのは、全て天童さんですから」


川西くんは視線を逸らした。私もその先を追うと、そこにはへらへらと笑いながら手を振る天童くんがいた。


「……?」


とりあえず天童くんに小さく手を振り返していると、また川西くんの視線が私に戻っていたことに気付いた。


「それでも何かおかしいと思うようなことがあったら、必ず俺に報告して下さい」

「な、なんで…?」

「“お願い”します、#NAME2#さん」


また来た。川西くんからの“お願い”。そう言われてしまったら、私に拒否することなんてできるわけがないじゃないか。


「うん、分かったそうするよ!」


そう答えると、川西くんの口元が微かに緩んだような気がしたのだった。


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