・敵と王子様は水面下2
ああ、苛々する。
今日も今日とてその人は誰彼問わずに愛想を振り撒く。何がそんなに楽しいんだよむしろそれ周りを馬鹿にしてんじゃないかというくらいにニッコニコしながら。その眩しい笑顔が本当に鬱陶しい。それはその人の役割的に当たり前のことかもしれないのだけれども。そうだ当たり前なんだ。だから調子に乗ってんじゃねぇよ五色。その人はお前に好意の類があって優しくしているわけでは断じて無い。その笑顔はあくまで業務用だから。残念だったな五色。
しかしそれにしても無性に腹が立つ。別に俺がそれを口にしたところでその人にとっては理不尽でしかないだろうし更にこれと言った抑止的効果だって望めないだろう。それにどう言葉にしろと言うんだ。“愛想の安売りやめて下さい白々しい”だろうか。いやこれはさすがに嫌みっぽくないか。そんなこと突然言ったら絶対その人はきょとんとするに決まっている。最悪“子供かよ”と呆れられるかもしれない。だから俺は今日も今日とて喉元まで出掛かっている理不尽な言葉を無理矢理飲み込むのだ。
ああ、苛々する。
「…え、どしたの白布くん」
「何がですか」
自分の声の低さに自分自身で驚いた。まさに不機嫌さ丸出しといった具合だ。その人は驚いたような顔をしながら俺の顔を覗き込んできた。この人はこういうところがあざといというか、白々しいというか。
「…風邪?」
わざとらしく視線を逸らすと、そんな間の抜けた問い掛けが飛んできた。苛々した。いや、分かっていた。この人に無言の主張なんて通じないことくらい。そしてそれでもそんな手段に出ざるを得なかった自分の幼稚さも。
「…そうですよ。伝染すと悪いのでどっか行って下さい」
「え、大丈夫…?」
「まぁ嘘ですけどね」
「嘘なの!?」
そんなかんじでからかってやると、その人はこれまたわざとらしく驚いてみせた。俺はあなたのそういうところが嫌いです。そんな軽口の一つでも叩いてみようかとは思ったけれども、この人の場合真に受けそうだからやめた。
「#NAME1#ちゃーん!」
そして五色以上にたちの悪い人間が現れた。反射的に自分の眉間に皺が寄ったのが分かった。いけないいけないと、とりあえずスクイズボトルのドリンクを喉に流し込んだ。
「お願い!ちょっとパンツ見せて!早く!」
「!!?」
そのまま思わずむせてしまった。このゲス野郎先輩はいきなり何を言っているのだろうか。その人はと言うとぽかんと呆気に取られていた。
「い、いやだよ!?」
そりゃそうでしょうね。その人は我に帰ったと同時に顔を真っ赤にして拒否をしていた。さすがにいくら#NAME2#さんでも天童さんのそんな申し出に快諾しようものなら、俺は間髪入れずにスマホで110番および119番コールをする。ちなみに言わずもがなパトカーは天童さん用、救急車は#NAME2#さん用だ。
「お願い!緊急事態なの!」
「パンツ見せて解決する緊急事態って何!?」
まさに#NAME2#さんの言う通りだ。それどんな緊急事態だよ。少なくとも俺の17年そこそこの人生の中で培った知識や経験では皆目見当がつかなかった。いやまずそもそも天童さんはもしかしなくても適当に言っているのだろうから、そういう理屈が存在するわけなんて無いのだけれども。
「#NAME1#ちゃん…俺を見捨てるの…?」
「…えっ…!?」
天童さんは目に涙を浮かべてぐすっと鼻を啜ってみせた。俺から見たらゲス野郎のド下手クソでわざとらしい演技にしか過ぎない。
しかして相手はあの#NAME2#さんだ。困ったことに天童さんのまさかの涙に目に見えてうろたえているみたいだった。
「両サイドのヒモだけ!ヒモだけでいいから!」
「なんで私がヒモパン穿いてること前提なの!?穿いてないよ!!」
「じゃあ腰の部分だけでいいから!」
いい加減雲行きが怪しくなってきた。#NAME2#さんは悩んでいるようだ。
恐らくこれ、このままだと#NAME2#さん本当に天童さんにパンツを見せかねない。そろそろフォローを入れたほうがいいのだろうか。
「……あ」
立ち上がった矢先、天童さんの背後におぞましいオーラを放つ影が、右足を高々と天井に向けて振り上げていた。
そしてそのつま先は、弧を描くようにして天童さんの頭頂部に向けて一切の迷い無く振り下ろされた。
「ひでぶっ!!?」
「すみません天童さん、足が滑りました」
太一のかかと落としが天童さんの脳天にクリーンヒットした瞬間だった。
こいつまた技のスキル上げてきたなぁと思わず拍手を送りそうになった。
「自業自得ですよ、天童さん」
そして俺もうつ伏せで床に倒れる天童さんに歩み寄り、その姿を見下ろした。
「ちょっとしたスキンシップでしょ?それに万が一それで#NAME1#ちゃんが見せてくれたら太一も賢二郎も儲けもんで…ぐふぉっ!!!」
思わずその頭を踏んでしまった。暴力はいけないと思う。しかしそれ以上にセクハラとか痴漢的行為は許されざることだと思う。
太一はそんな俺の心境に同意するかのようにただただ無言で頷いた。
「天童くん、ごめん、今日はちょっと子供っぽいパンツだからまた今度に…」
「「#NAME2#さん、いい加減にして下さい」」
自然と太一と声がハモった。その人はと言うと、唐突な俺らからの叱責に対し戸惑っているようだった。
苛々する。本当に苛々する。一度痛い目を見ればこの人も“人を疑う”ということを覚えてくれるのだろうか。
いや、それにしたってこの人に痛い目を見せるのが天童さんというのは絶対に許せない。
さて、どうしてくれようか。俺の保護欲求を容赦なく高めにかかってくる、このどうしようもない先輩を。
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