・敵と王子様は水面下 3(req)
「#NAME1#ちゃん。たしかにその恥じらいはプラス効果だよ」
涙が浮かんだ。どうして私はこんな目に遭っているのだろうか。
小さい頃から両親に“人には常に親切でありなさい。困っている人がいたら助けてあげなさい。そうすればきっといつかお前自身のためにもなるから”と言い聞かせられてきた。たしかにそれが間違っているとは思わない。だって実際、心優しい友人ばかりに恵まれているし、困ったら助けてくれる人だっている。でも、
「て、天童くん…!」
世の中にはもちろんそんな性善説が通用しない人間もいるわけで。そして私の中でのそんな人間の代表格は、今日も今日とてニヤリと不気味な笑いを浮かべるのだ。
「でもなんのためのパニエなの?手、放しても見えやしないってば」
私は無駄に短いスカート丈を必死に抑えながら、天童くんに向き直った。
今回の文化祭でうちのクラスの出し物はメイド喫茶らしい。男子も女子もどういうわけかノリノリだった。そして“支配人”に抜擢されたのは、まさかの天童くんだった。どういうわけか天童くんは男子から絶大な支持を得ていた。
そして今日。なんでもその際の衣装が出来上がったとのことで、部室に来るなりどういうわけか天童くんから無理矢理それを着せられたのだった。
「なんだか、精神的に…っ!」
恐らく膝上20cmくらいのめちゃくちゃ短いスカートに、二の腕がさらけ出しになっているブラウス。そして何故かネコミミカチューシャ。消えてなくなりたくなった。
とにかくなんだか太もものあたりがめちゃくちゃスースーするし、いろいろと心許ない。
「#NAME1#ちゃんは、それでウェイトレスしなきゃいけないんだよ?」
「え、わ、私裏方希望出したよ…!」
「うん、却下」
「えっ…!?」
なんだか視界に涙が滲んだ。
でも、100歩譲ってこの格好はまだ我慢しようと思えば我慢できる。天童くんの言うようにパニエも履いているし、恐らく本番はみんな同じ格好をするんだろうし。きっと慣れてくれば普通に振る舞えるようになるのだろう。多分。
でも、一つ気になるのが
「天童くん、何してるのさっきから…?」
天童くんは床に寝転がりながらカメラを構えていた。レンズは終始こちらに向いている。
何度も何度も執拗にシャッターが切られる音がした。
「売る」
「誰に!?」
「1枚2000円で」
「高っ!!!」
なんという価格破壊。今ツッコむべきはそこでは無いんだろうけれども。あ、どうしよう、泣きそう。
「イイ!イイよその表情!ちょっとそれであひるさん座りして上目遣いちょうだい!!」
「え、え」
「早く!!」
天童くんの目はもう完全にプロのカメラマンのそれだった。きっと何かしら大切な目的があってそんなことを言っているのだろう。だとしたら、とてもじゃないけどないがしろにはできなかった。
「最高!カワイイよ#NAME1#ちゃん!ちょっと口元に手添えてみて!」
「…………。」
ああ、本当に泣きそう。
鼻の奥がツンと痛くなった。
「…お疲れさまです」
すると、ふと天童くんのシャッターを切る指が動きを止めた。
欠伸混じりの挨拶をしつつ、部室に入ってきたのは川西くんだった。
「…………。」
「…………。」
「…………。」
川西くんは相変わらず無気力そうな顔で、ただただこの状況を見ていた。
時間にして数秒間。部室の中がしんと静まり返った。
後輩に、こんな姿を見られてしまった。恥ずかしくて情けなくて、とうとう目からは涙が零れた。
「ぐふっ!!」
と、次の瞬間、川西くんのボディブローが天童くんの腹部にめり込んだ。
「ぐぎっ!!!」
そして続けざまに川西くんのアッパーが天童くんの顎に決まった。
「あべしっ!!」
そしてとどめのフライングクロスチョップ。天童くんは仰向けで床に倒れた。
「…………。」
「川西、くん…?」
そんな華麗な技の数々を見せてくれた川西くんは、変わらず無気力そうな顔で私にゆっくりと歩み寄ってきたのだった。
「#NAME2#さん」
「は、ハイ…」
「嫌なことは嫌って、言いましょう?」
「…で、でも…」
川西くんの言葉は、相変わらず淡々としていた。でもなんだかほんのちょっとだけその中には怒気も含まれていて。普段温厚で飄々としてる川西くんだからこそ、なんとも言えない迫力があった。
後輩にすらびびってる先輩。頬に涙がまた伝った。
「“お願い”します。#NAME2#さん」
すると川西くんは、一瞬ニッと微笑んだ後に私にジャージを貸してくれたのだった。
「わ、分かった…ありがとう川西くん…!」
ああ、なんて頼もしい後輩なんだろう。涙を拭いながらお礼をすると、川西くんはまた微笑んだのだった。
「!?#NAME1#ちゃんそれイイ!ちょっと目線ちょうだい!」
「へ」
メイド服の上から川西くんから借りたジャージを羽織ると、いつの間にやら復活したらしい天童くんからそんなことを言われた。
「さっすが太一!どさくさに紛れて#NAME1#ちゃんに“彼ジャー”させるとか!」
「かれじゃー…?」
聞き慣れない言葉をなんとか理解しようと脳内検索をかけていると、川西くんが両手を組んで指をゴキリと鳴らしたのだった。
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