・牛島さんとお夜食!3(req)


休み時間中。ひたすら楽譜を読み込んでいると、クラス内が突如どよめき出したのだった。
ふと顔を上げると、女子は皆一様に顔を赤くしながら目を輝かせて一点を見つめている。男子は“身体すげぇ…”とか“まじカッケェ…”とか呟きながら、やはりある一点を見ていた。


「牛島さん、どうしたんですか!?」


そして隣りの席の白布くんが、血相を変えて立ち上がったのだった。
白布くんが口にしたその名前は、私にとって最近ひょんなことからいきなり聞き馴染んできたそれで。ということは、


「……!!」


白布くんの姿を追うと、ドア付近にはなんとあの牛島さんが立っていたのだ。当然ながら、制服姿で。うちの白ブレザーにあんなでっかいサイズがあったのか、なんて明後日の方向に驚いたと共に、牛島さんのなんともいえないオーラに思わず言葉を失ってしまった。寮で会うときとは、また全然違う。


「まじカッケェ…!!」


ようやく絞り出した私の声は、まさかの男子寄りだった。
だって仕方が無いと思う。その高身長と体格の良さに加えて、キリッとした表情と育ちの良さすら窺える品の良い立ち姿。
…実はその人が、私が焼きうどんだの生姜焼きだのを振る舞ったジャージ姿の兄ちゃんと同一人物なのだということを思い出すと共に、どういうわけかさぁっと血の気が引く感覚に陥った。
なんかもっとこう…もっと彼に相応しい品のあるものを作るべきだったと、今更ながら後悔に苛まれた。そんなものが私に作れるかと言われると、微妙だけれども。


「…#NAME2#。」

「……え?」


そんなかんじで呆然としていると、いつの間にやら私の近くにいた白布くんから声を掛けられた。


「牛島さんが呼んでる」


白布くんは終始怪訝そうな顔をしていたのだった。



「う、牛島さん、お疲れ様です…」


白布くんに付き添われ、牛島さんの元に行った。あまりにもクラス内の視線が痛かったから廊下に出つつ。
それにしてもどういうわけか牛島さんを直視できない。なんというかこう、やっぱり制服姿の牛島さんはカッコ良すぎるんだ。そもそも私なんかが直視していいような存在ですら、ないように思えてくる。


「#NAME2#」

「ひっ…ハイ!」

「米とか肉とか野菜とか、いるか?」

「へっ!?」


あまりにも突然すぎた。最初全く意味が分からなかった。
米とか肉とか野菜…?


「お、お米は…実家から定期的に大量に届きますので…っ!でも野菜とお肉はそろそろ買い出しに行かないと…!」

「そうか。分かった。今日持っていく」

「へっ!?」


牛島さんはそう淡々と言った後、他には特に何も言うことなく去って行った。なんなんだ。
変に緊張したせいか心臓がばくばくと五月蝿い。


「#NAME2#お前、なんで牛島さんに肉とか野菜とか貢がせてんだよ」

「貢っ…!?」

「何様だよ」

「何様っ…!?」

「しかもなんか牛島さん楽しそうだったし」

「どこが!?」

「なんかむかつく」

「!?」


そして拗ねたような顔をした白布くんから、両頬をむにむにと引っ張られたのだった。


「やわらかっ」

「ご、ごめん!」


なんなんだろう、本当に。






**************


「はぁ…」


時刻は21:00。
今日は比較的早めに練習を切り上げた。日中のそんなごたごたなんて記憶の彼方に消え失せてしまう程、今日の部活は揉めた。大揉めに揉めた。
弦楽器と管楽器って、どうしてあんなに気が合わないのだろうか。いや、団体芸の弦楽器と個人芸の管楽器でそれぞれ一人一人に求められる役割がはなから違うのだから当たり前なのかもしれないけれど。
特に1stヴァイオリンと木管楽器トップ勢の衝突がとにかく凄まじいのだ。それぞれが本気だと言う証拠なのだろうけれども。なんだか疲れた。すごく疲れた。コントラバスって弦楽器でありながら吹奏楽にも使われるくらいに管楽器寄りな楽器でもある。だからいつもいつも板挟み。はぁ…



「なんだ。今日は早いな」

「う、牛島さん!?」


満身創痍で部屋に入ると、そこにはまさかの来客が。いや、合鍵を渡したのは私なんですけれども。それにしても部屋に帰ったらいきなり寄りによって牛島さんみたいな大きい人がいたら驚いて然るべきだろう。


「随分、疲れているな」


牛島さんはぱちぱちとまばたきをしながら呟いた。私はよほどひどい顔をしているらしい。

…と、そんなことよりも。


「牛島さん!なんですかこれ!?」

「家の人間が持ってきた」


床には大きなダンボールが3つ、ところ狭しと並べられていた。
その中にはツヤツヤきらきらと輝く野菜や、グラムいくらだよとツッコミたくなるような、綺麗なサシの入ったお肉たちがびっしりと入っていた。


「ゆ、夢…!?」


私にとっては宝の山。それがたしかに今、目の前にあるのだ。


「全て、やる」

「いいんですか!?」

「俺の部屋には冷蔵庫も無い」

「へっ」


本当に、牛島さんはどんな生活をしているのだろうか。
それはさて置き、うちにある冷蔵庫は私が昨春町内会のくじ引きで引き当てたものだったりする。一人暮らしで使うには無駄に大きく、普通の一般家庭用のサイズだったりする。
これが今初めて、本来のポテンシャルを発揮してくれるのだ。なんだかテンションが上がった。


「牛島さん」

「なんだ」

「今日、ちょっと時間早いですよね」

「そうだな」

「今日は30分くらい下さい」

「何をつくるんだ?」

「鍋です」

「鍋?」

「落ち込んだときは、鍋なんです!」

「お前落ち込んでいるのか」

「…若干」


さぁ気を取り直して。まずはお米の用意をしなければ。こちらは今回、牛島さんにお任せすることにした。


「無洗米なのでさらっと撫でながらゆすぐ程度で大丈夫です」

「米が小さい。そして固い」

「へっ」


牛島さんはもしかして、生米を見たことが無いのだろうか。お坊ちゃんって怖い。


「牛島さん。これ、炊くとふわっと膨らむんです」

「どういう原理だ」

「…げ、原理?」


牛島さんは至って真剣な顔をしながらそんなことを聞いてきたのだった。
なんというか、かわいらしい。日中に教室で会ったときとは比べ物にならないくらいの親近感も覚えてしまったものだからから、なんだかすごく不思議なひとだと思った。


「水を吸って、膨らむんじゃないでしょうか…?」

「なるほど」


とりあえずエビデンス皆無な私のイメージだけを伝えてみたけれども、牛島さんはそれで納得してくれたようだった。後でちゃんと調べて、間違っていたら訂正しようと思う。


そしてその約一時間後、私と牛島さんは絶品お肉とお野菜の鍋をこれでもかと堪能した後に、しっかりと〆の雑炊まで頂いたのだった。
その頃には、部活のごたごただなんてどこかに吹き飛んでしまっていた。
やっぱり、誰かと食べるお鍋っていいなぁ…。


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――――――
200000Hit御礼企画
テーマ:夜食設定で、学校で牛島さんと会う

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