File4
俺の、松田陣平の休日の一日を話すとしたら。
ある程度早起きをして。
自身の部屋の掃除や普段忙しくて手の回らない洗濯などをこなしつつ。
体が怠けないよう適度に運動をする、はずであった。
しかし今朝の俺は目を覚ましたのにも関わらず寝床から全く動けずに携帯を眺めてボーッとしていた。
連絡がこないのである。
あれから、あの事件から数日経った今も尚、連絡先を交換したはずの携帯は彼女ーーー宮藤明日美からの連絡を受信していなかった。
冷静に考えればたまたま二回程度居合わせた刑事と連絡先を交換したところでわざわざ犯罪でも起きない限り連絡がこないことなど明白ではあったが、(何かあったら)連絡しろと言ったのに連絡がこないことに少し腹を立てていた。(勝手すぎるし意味がわからない)
ぽちぽち、と着信履歴を眺めると数日前に自分にSOSを送ってきた履歴があるだけで、それ以降宮藤明日美という名前は表示されなかった。
メールアドレスは交換していないためメールが来るはずもないのに何となくメールボックスまで開いてしまう。受信ボックスを眺めていると一番最近受信したメールが萩原からの合コン行こうぜ、などという浮ついたメールであることに何となく殺意を覚え携帯を閉じた。
はっきり言おう。俺は今、完全に病気である。
そうして半日が経ち現在時刻は12:42。
結局午前中ずっと携帯をダラダラと眺めてしまい、手に付かなかった家事を始めることにした。
なんとなくテレビをつけて掃除機をかける。普段あまり家にいないせいか埃がたまってしまっていた。掃除機の音とテレビの音が混ざる。
『続いてはー最「ウィーーーーーン」女子高生に「ウィーーーーーン」胸キュンする「ウィーーンカチッ」ランキングコーナーです!』
女子高生、という単語に気を取られテレビに視線を向けるとそこには【最近の女子高生に聞いた!女子が胸キュンする男性の行動ランキングコーナー】というアラサーの男にはなんとも似合わないタイトルが表示されていた。
胸キュン。そんなキュートなワードに興味があるわけがないのだが、なぜかその番組に気を取られてしまう。
『今どきの女子高生に聞きました!胸がキュン!とした男の子の行動や仕草は?』
テレビの中の女性レポーターが若者の街で女子高生にインタビューをする姿が映し出される。
『私はーなんか危ないところ助けてもらったりー咄嗟にこう、受け止めてもらったり!』
ついこの間それはやった。
『えー、私はやっぱ特別扱いされた時かなーなんか私だけ名前で呼んでもらえるとかー』
名前も呼んだ。
『私はーやっぱ物理的距離?突然近寄られたりしたらドキドキしちゃうかもー!ただしイケメンに限る〜〜』
だ、抱きしめるのもやった。勢いで。
テレビを見ているとなんだかどれもいつのまにか無意識にやってしまっていて今更意識してやるのは恥ずかしいな、という内容のものばかりであった。そもそも高校生相手に何を考えているんだ、胸キュンさせたいわけじゃないんだ、決して。
馬鹿馬鹿しい。何を見ているんだ俺は。そう思い、掃除機のスイッチを再度入れ直し、掃除始めようとした時。
『私はやっぱ心配してくれた時かなーなんかわざわざ私が帰るの待っててくれてー!遠いのに家まで送ってくれた時とか!』
それだ。
頭の中に名案がひらめいた俺はさっきまでの宮藤明日美に胸キュンさせたいわけじゃないなどという己の言葉をすっかり忘れてやりかけの家事をほっぽり出し。日が傾きかけた夕日の空の下へと飛び出した。
数日前見た景色を辿り、見覚えのある高校の正門へと向かう。
時刻は15:38
自身は休みとはいえ、世間は平日である。授業が終わり生徒がゾロゾロと門から出てきていた。その中の一人、三年生くらいであろうか、明日美と同じくらいの大人びた女子生徒に声をかける。
「すいません。」
「はい?」
「俺、この間ここで事件あった時、ちょっと関わった刑事なんだけど、宮藤明日美って子、知らねぇかな。この間の事件で聞きたいことがあって。」
宮藤明日美の前だとなかなか言えないごまかしや嘘も他の人相手だとすらすらと口から飛び出してきた。彼女に妙な感覚を覚えた時まさか自分がそっち方面ーーいわゆるロリータコンプレックス、というやつに陥ったのではないかと不安になったが、こうして彼女以外の女子高生にはなんの躊躇もなく話しかけることができ、身体も異常を示さないので安心した。やはり吊り橋効果だろう。
「あー、明日美?明日美ならもう図書館ですよー。勉強してるんじゃないかな?」
「その図書館ってどこ?」
「えっと、ここを右に曲がって、10分くらい行ったところにある図書館ですよ。ってか、お兄さん、明日美のこと助けた噂の刑事さんですかー!?」
マシンガンのように言葉を投げかけるやけにテンションの高い女子高生の目はキラキラ輝いており俺のことを見つめていた。なんだ、その目は。
「あ、ああ…まぁ…」
「きゃー!やっぱり!お兄さんかっこいいし、そうだと思ったー!明日美ってば羨ましいな、こんなイケメンに危機救ってもらって!」
「は、はぁ…」
「明日美言ってましたよー、超カッコよかったって!顔もイケメンでー背も高くてー何より助けてもらった時に抱きしめられたのがめっちゃときめいた〜って!」
「………そ、そうか」
「あ〜明日美うらやまし〜私も事件に巻き込まれてときめきたい〜!ね、ね、刑事さん私が不審者に襲われたらその時はよろしくね!んじゃ!ばいばーい!」
「お、おう、ありがとなー」
まさに弾丸トークである。こちらの反応など伺いもせず言葉のボールを顔面に投げつける勢いで、事件に巻き込まれたいなどと物騒なことを言い残した彼女の友人であろう女子生徒は自分の言いたいことを言い切り、満足気に去って行った。
しかし、それより。それよりである。
ときめいていた、その言葉に無意識に口角が上がっていた。ときめいていたのか、そうか、そうなのか。
妙な幸福感に包まれた俺は教えてもらった図書館へと浮き足立つように向かった。