十四松のお祈り


ハンドクリームをすり込んでいたところ、十四松に「なにそれ?お祈り?」と言われてしまった。そんなに信心深く見えたのかと思ったらただ単に両手をすり合わせてるせいだった。祈ってるんだとしたら十四松に祈ってる事になる立ち位置だ。

「ハンドクリームつけてるの」
「女子力!」

類を見ない相槌は嫌いじゃない。うんうん頷きながら私の手を嗅いで「おいしそー」と付け加えた。なにも十四松は腹ペコなわけじゃない。ハンドクリームにオレンジ香料が入っているからだ。それからずっと嗅いだままの十四松の手を見ようとしたけど叶わなかった。袖が伸び切って手が隠れてる。何をどうしたらそんなになるんだろう。

「十四松、手見せて」
「ほい!」

袖から手がにょきっと生える。ごつごつしててどことなく関節が曖昧なソレは、やっぱりと言っていいのか荒れていた。これでいつもみたくはしゃぎ回ってるのか。よくばい菌が入らないな。もしかしたら入っても体内で即撃退してるのかも。ふふ、あり得る。

「一緒に塗ろうよ」
「わーい!おそろい!」

素直に喜んでくれた十四松の手にチューブを絞って、自分の手にもちょっと絞る。曖昧な関節を合わせて待っている十四松はいただきますをしてるみたいで可愛い。私も両手を合わせると一緒にすり込み始めた。

「誰にお祈りしよっかなー。#name#ちゃんは誰にしてたの?」

柔らかいオレンジの香りを散らばした十四松と目を合わす。別に祈ってたわけじゃない、って言うより先に「十四松に」って口をついて出てきた。想像だにしてなかったみたいで「俺!?」ってひたすらびっくりしてる。十四松がびっくりさせるのは分かるけど、びっくりしてるのを見るのはなんだか珍しい。

「十四松がいつまでも元気でいられますようにって」
「照れるねー!じゃあ俺は#name#ちゃんにお祈りするよ!」
「なんて?」
「#name#ちゃんと俺がずっと一緒に幸せでいられますようにっ!」

ぱん!と顔の前で手を合わせる十四松。私の事まで祈ってくれるとか天使か?ずっと、一緒に、幸せでって・・・天使か。一人で納得していると十四松が笑顔はそのままに、ちょっとだけ眉を下げる。

「いっぱい祈りすぎたかな」
「そんな事ないよ。一緒に幸せになろうね」
「うん!」

今の、プロポーズみたいだったな。まあ十四松が嬉しそうだしいっか。ぎゅっと手を握られて反射的に握り返す。かさかさしていた手はハンドクリームのおかげでしっとりしてる。これからもお祈りを続けるだろうから、いつかは荒れ知らずの手になるはずだ。今のままでも十分握り心地がいいのに、そうなったらどれほど気持ちがいい事か。目下、私達の幸せはオレンジの香りだ。

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