深追いカラ松


そもそも酒の弱い者2人が集まって酒盛りをした時点で間違っていたのである。弱いだけあって飲み方がよく分からないカラ松と#name#は、でたらめに買った酒をでたらめに飲んで、つまみをそこそこに胃に収めていた。酔っ払い度は#name#の方が上回っており、上半身を揺らして高笑いしている。まだ正気を保てているカラ松は「大丈夫か?」と控えめに声を掛けた。

「なにが?」
「酒という名の魔物に呑まれているようだったからな」
「そんな事ないよお。カラ松は面白いねえ」

酔っているという事実を否定するのは酔っ払いの常套手段である。#name#もそれに則って、カラ松の肩をバシバシと叩いてご機嫌だ。バカ正直なカラ松は「本人がそう言っているなら大丈夫か」とそれ以上追及するのをやめた。深追いするべき時にせず、しないべき時にするのがこの男である。

いい具合に酔いの回った#name#はというと、勝手知ったる自分の部屋をきょろきょろと見渡した後、矢庭に着ていたシャツに手をかけた。ずばり脱ぎ始めたのである。一気に捲られたシャツの下から肌とパステルブルーのブラジャーが現れ、それに驚いたカラ松は声にならない悲鳴を上げる。同時に、反射的に引っ掴んだブランケットを頭の上から思い切り被せた。さすが童貞、女性の肌に慣れていないだけあって素早い。

「あったかいね」
「だっ・・・だろう!?最近の風は荒っぽい。身体を冷やさないようにな!」

合わせ目から顔を出す#name#はじっとしているように見せかけもぞもぞとしている。ブランケットを取り払う気配は、ない。左胸の辺りを鷲掴みにして動悸を抑えようとするカラ松は、振り返ってデスクに置かれたグラスを呷る。すると頭上にぱさっと布状のなにかが投げられた。結局取ってしまったか、と高を括って"なにか"を手に取ると、それは先ほど一瞬見かけたパステルブルーのブラジャーであった。声にならない悲鳴、再び。

「!!!?」
「スース―する」

勢い振り返ると#name#はブランケットを被ったままだった。少しだけ残念そうな表情をしてしまったカラ松も、#name#がまたもぞもぞし始めた事で一気に青ざめた。まさかパンツを脱ごうとしている!!?と思考を巡らせたからである。ぎゅうっとブラジャーを握り締め慌てふためく姿はまるで下着泥棒だ。

「やめてくれ、#name#!!それ以上は踏み入れてはならない禁断の聖地だ!!」
「踏み入れてもいいのに」
「こころのじゅんびができてない!!」
「私のセリフ取られちゃったー」

そこまで気にしているようでもない#name#はけらけらと笑ってブランケットを広げる。まるで露出狂だ。あなや!と叫んだカラ松の両手は目を覆っているものの、完全に隙間から様子を窺っている。男としての自分を裏切らないカラ松もなんのその、#name#はしっかりとシャツにショートパンツを身に纏っていた。

「服は着てるから、心の準備はいらないよ」
「でもノーブラだろ!」

濃いめの色のシャツだったため透ける事はなかったが、存在を明らかにしている事は確かだった。つん、と上を向く乳首に目がいってしまうのはやはり仕方のない事なのだろう。それを知ってか知らずか、にやりと笑いを滲ませた#name#は「半分正解、もう脱いだ」と今度はパステルブルーのパンツをひらひらと見せびらかす。

「聖地!!!」
「性地?」
「ニュアンスが違う!」
「あっ、カラ松、鼻血出てるよ」

下着を身につけていなかろうがあくまでマイペースな#name#。どこか不機嫌そうにティッシュを手繰り寄せて鼻を拭うカラ松。それを察知した#name#は、パンツを持ったままの手をそっとカラ松の太ももに這わせる。相変わらずカラ松はブラジャーを持ったままだし、なんと際どい絵面だろうか。

「大丈夫だよ。カラ松がノーパンだったら私も鼻血出すから」
「えっ」
「おあいこだよ」
「いや、それは、うーん・・・」
「もしかして今穿いてないの?」
「・・・穿いてなかったら、どうする?」

カラ松にしては珍しく、不敵に笑んで#name#に詰め寄る。もうこの際なにがどうなっても構わないと覚悟を決めたのだろう。その瞳は酔いなど一切孕んでおらず、場のノリで誘っている眼光とは訳が違う。詰め寄られた側は呑気に首を傾げて、少しだけ困ったように眉を下げる。

「ごめーん、やっぱり鼻血は難しいや」
「そもそも俺の聖地はしっかりと護られているぞ」
「えーっ、ノーパンじゃなかったんだ」

冷静に答えを述べた頃にはカラ松の鼻血は止まっていたし、酔いもすっかり覚めていた。ブラジャーをそっと返すまでに至り、先ほどまでの妙な雰囲気の欠片もない。深追いするべき時にせず、しないべき時にするのがこの男である。

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