ツッコミ放棄だチョロ松さん


チョロ松は求人雑誌を流し読みしながらビスケットを摘まんでいた。時にぼんやりと頬杖をついてみたり、時に伸びをしてみたりと、自ら読んでいるのに内容が相当つまらないらしい。#name#はチョロ松の向かいで携帯ゲームをしながら、その様子をひそかに見守っていた。というのもビスケットの食べ方が不思議だったからである。

ビスケットは一口サイズであり、そのままぽいっと口に入れて咀嚼できるような代物だ。しかしチョロ松はそれをせず、口に運んでからしばらく咥えたままでいるのだ。ぼーっとしているせいもあるのかもしれない。今まで数枚食べているが、そのどれも必ず口元で遊んでから食べている。#name#は好奇心を隠せない表情で身を乗り出す。

「チョロ松」
「んー」

名を呼べば、相変わらずぼーっとしたまま前を向く。雑誌を読んでいた時よりは生気が窺える。口元には咥えたままのビスケットをぶら下げており、待ってましたと言わんばかりに#name#はそれに食らいついた。チョロ松の唇ごとビスケットを食べてしまったのである。すぐに離れて咀嚼する#name#の行動に特になんの反応を示す事もなく、頬杖をついたチョロ松は「おいしい?」と言ってみせた。

「おいしい!」
「まだあるよ」

差し出した袋は"徳用"と書かれている辺り、たくさんのビスケットがひしめき合っている。その内の一枚を摘まんだ#name#は、チョロ松へ咥えさせ、また口移しで食べる。二枚目も然り。三枚目を食べようとした所でしばらく沈黙を守っていたチョロ松が声を上げる。

「・・・ツッコむまいと思ってたけどさ、俺を経由して食べるのやめない?」
「そっちの方がおいしいよ」
「俺としてもオイシイよ」
「じゃあいいじゃん」
「いいのかなあ」

三枚目もチョロ松の口を経て#name#の口の中へ消えていった。言っていた通りオイシイ状況ではあるのだが、どうにも釈然としない表情でチョロ松はビスケットを摘まむ。それを#name#に咥えさせ、今度は自分がビスケットを奪ってみせた。#name#は恥ずかしがる訳でもなく咀嚼するチョロ松の口元をじっと見つめている。

「おいしい?」
「うん」
「まだあるよ!」

喜んで差し出される袋。ツッコむべき所は多々ある。それらを全て放棄してビスケットをまた摘まむチョロ松の口元はしっかりと弧を描いていた。もういっそビスケットなしで唇を重ねてもよさそうだが、そうするには口が甘くなりすぎた。

- 9 -

*前次#


ページ:



ALICE+