昔から緊張しい性格が嫌いだった。
「大丈夫か」
そんな自分の性格を初めて良かったと思えた。密かに想いを寄せている人に声を掛けてもらえたきっかけになったから。
「お腹がいたい。」
甘えるようにチョコラータに抱きついては首に自分の腕を絡めすり寄る。チョコラータが読んでいた本を取り上げて私も覗き込んだ。イタリア語で書かれた専門書のようで内容はさっぱりだ。
「本が痛むだろ。」
「ねえ、これ何が書いてあるの?」
「お前に言っても分からないこと。」
つれない返答に口を尖らせるとチョコラータはからかう様に笑い、本を遠くに置いた。
「診察してやる。大人しくできたらご褒美をやろう。」
「ねえ知ってる?医者っていうのは嘘つきなの。」
「医者も人間だ。」
2人が座るには大き過ぎるソファーに倒される。服をまくられ冷たい空気がお腹に触れた。チョコラータの骨張った掌が私のお腹に乗り、もう片方の人差し指がその上でトントンとリズムを刻む。
「ここは。」
「うーん、……」
「この辺はどうだ?」
「あ、そこ」
チョコラータの刻む振動が空っぽのお腹の中に響いて心地良い。痛みは変わらずあるものの気持ちが和らぐ。
「どぉ?」
チョコラータはわざとらしく真剣な顔で唸る。それが可笑しくて体を捩りながら笑うと、チョコラータの腕が私のお腹の動きに合わせて揺れた。
「今すぐ手術だ!」
そう言ってお腹に乗っている手が上に這っていく。触診していた手の動きは。いつの間にか服は首まで上げられ、ブラジャーのホックが外されていた。
「ちょっとチョコラータっ、」
「ご褒美をやると言っただろう?」
「もうっ!」
怒ったように振る舞っていても声や表情までは偽れない。チョコラータの頬を撫で首に手を伸ばす。口角が上がりお互いの鼻が触れ合って笑い合い、お互いに唇を近付けた。
「ただいま。」
「浮かない顔だな。」
珈琲カップを洗い終えるのを待って私はチョコラータに抱きついた。チョコラータは私を横目で見ると腰に回した腕を解き、寝室に誘導した。
「私の前で我慢をするな。何か強いストレスを感じる事があったのか?」
「部下が取引先に失礼な事をして謝りに行ってたの。」
「ああ、前に言ってた気難しい……」
「ごめん、もう無理。」
言うな否や私はスーツのままベッドに倒れ込んだ。チョコラータは暫く私を見ると部屋を出た。
きっと薬やら簡易的な検査器具を持ってくるのだろう。
「整腸剤は?」
「飲んだ。……体調悪いの、よく分かったね。周りは全然気づかなかった。」
「おれは医者だ。」
血圧、心拍数、体温、聴診器……ちょっと過保護じゃないかってくらいにチョコラータは朝と夜に検査をして記録している。時々面倒に感じるが、チョコラータの真剣な検診している顔だったり大切に想ってくれてるんだなと感じれて、悪くない。
「そこは医者じゃあなくて、彼氏だって言わなきゃだめよ。」
「そうだったな。」
メモを取り終えノートをキャビネットの上に乱雑に置いた。
「おれは最初っから、ただお前に声を掛けるきっかけが欲しかった、1人のしがない男だよ。」
思わず口元が綻ぶ。目を細めて私は目を閉じてチョコラータからのキスを待った。
お腹の痛みは日増しに強くなるばかりだ。
END
20190618
