12 もういちど


「一度逃したチャンス、逃したままでいいと思ってる訳?」

そう言ったハナ子はいちご牛乳のパックを押しつぶしながら飲みきった。なんだか説教じみているハナ子の台詞に、名前は思わず両手を膝に置いた。話を突然振られたにも関わらず、名前はそのチャンスとやらに大分心当たりがあった。赤司と行くはずだったデートのことである。嘘を付くことが嫌という理由で断ってしまったデートだが、それでもそれが恋する乙女にとって千載一遇のチャンスだったことには変わりない。ハナ子は、名前の嘘を付けないという正直な性格を好いているが、このチャンスを逃した事に対しては呆れていて、又、名前も自分がしたことに後悔はしていないが、惜しいことをしたと感じていた。何故ならそれきり赤司との関係は何も進展しないまま、平凡な日々を過ごしているからだった。

「もう一度、誘うに限るわ」

「え、」

「だけど今度は名前自身で内容を考えることね、ドタキャンすることのないように」

釘を刺すように言われ、名前は腕を組んで真剣に考え始めた。赤司が楽しめて、且つ自分も楽しめる場所が全く思いつかない名前の頭から、ついに煙が立ち上る。そんな名前の様子にハナ子が軽く同情しながら回答を待てば、やがて名前が何か思い付いたように身を乗り出してきた。

「ようは、私と赤司くんが楽しめればいいんだよね!」

「…そうだけど」

「じゃあさ、どこでデートしようが私が赤司くんを楽しませてみせるよ!」

どどん、と名前にしては迫力のある目標を掲げたことにハナ子は拍手を送った。

「じゃあ、後は場所だけね」

「うーん、でもさ、赤司くんて部活が忙しいから日にもよるよね」

「じゃあ、早く聞いてきて」

ハナ子が当然のように言ってのけるので、名前はぴしゃりと固まった。名前が流されるように赤司の席を見れば、この授業が自習という名の自由時間になった途端騒がしくなったクラスに反して一人本を読み耽る赤司の姿があった。その姿があまりにも素敵すぎて食い入るように見つめていれば、突き刺さる視線に気付いたのか、赤司が名前の方へ視線を向けた。ぱちりと合ってしまった視線を、名前は思わず逸らしてしまう。

「ぎゃー!ハナ子ちゃん目があった!!」

「よかったじゃない、ほら、」

トン、とハナ子が名前の背中を押す。赤司はキョトンと首を傾げて名前を見つめている。そんな二人の雰囲気に押され、心の準備もできないまま名前は赤司の元へ大人しく歩き出した。

「あー…赤司くん、」

「なんだい?」

「部活がない日とかって…あります?」

名前が目を泳がせながら聞くと、赤司はうーんと思い出すような素振りをして、部活のスケジュールの様な物を鞄から取り出した。

「今週はないかな…来週の土曜日は午前練のみで解散…今の所はそれくらいかな」

「そ、その日、私と一緒に…!」

慌てて口を開いた名前は、自分で言った言葉の続きに詰まってさらに焦った。(場所決めてないんだった…!)取り敢えず、…遊びましょう、と片言になりつつも言葉を繋げた。

「ああ、構わないよ…でも何処へ?」

(つ、突っ込まれた…!)
「いやあの、まだ何処かは決まってなくて、取り敢えず赤司くんと何処かへ行きたくて、だから赤司くんの予定をまず先に…」

んんん?
名前は頭をフル回転させながら、早口で言った自分の言葉を咄嗟に思い返した。“取り敢えず赤司くんと何処かへ行きたくて”…?そのフレーズを何度も頭の中でリピートして気付く。まてまてまて、ひょっとして自分物凄いことを言ってないか…?!

「わーっ!ごめん今のはちょっと間違えた!いや間違えてないんだけど間違えた…!」

ぼんっと身体の体温が一気に上昇した名前は、その赤くなった顔を必死に手で隠した。赤司はそんな名前の姿を見て、すぐに視線を逸らして手の甲を自分の口元に押し当てるようにして名前の赤さが伝染した自分の顔を隠し、そして、それを誤魔化すように、一度咳払いをした。

「…わかった。土曜日、空けておくよ」

「ほ、ほんと…?じゃあ何処が良いか、考えておくね!」

名前はそう言って、逃げるようにハナ子の元へ戻っていく。赤司はそんな名前を一瞥した後、再び本を読み始めた。

「ハナ子ちゃん、午後からのプランを立てよう!」

「了解」

そうしてハナ子と名前はまた放課後にファミレスに入り浸るのだった。




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