It takes two to make a quarrel.
とある日の神の涙学院、医務室にて。
指導中に手首を捻ったとやって来たツカサにテーピングを施していたナギは、武術科教師であるルーカスが半ば担ぎ上げるように連れてきた人物──カーディナルを目にすると、呆れたように嘆息した。
「先ほど中庭で拾ったんですけど、どうしましょうねぇ?」
いつも通りのマイペースな口調でルーカスに訊ねられ、思案するように首をひねるナギ。その間も彼の手が止まることはなく、綺麗に固定されていく自分の手首をツカサは感心したように眺めていた。
「適当にベッドに投げといてくれますか」
「はい、わかりました」
数秒後に発せられたナギの一言で、ルーカスの腕からベッドに落とされたカーディナル。言葉通りに投げられこそしなかったものの、扱われ方はぞんざいで、落下の衝撃が頭に響いたのか額に手をやった彼の喉からは呻くような音が漏れる。
「はー、やっぱり男の子は重いですねぇ」
疲れちゃいました、と肩を解すルーカスがカーディナルの傍を離れ、入れ替わるようにしてツカサの処置を終えたナギが枕元に立つ。未だ回る世界と戦っているのか動く気配のないカーディナルの様子を確認して、軽く頷いた。
「いつも通りの立派な貧血だな」
そう言うが早いかナギはカーディナルの靴を足元に落とし、身体よりも足が高くなるように足元に折りたたんだ布団を敷き入れていく。
その様子を眺めながら、ツカサは固定された手首の動きを確かめていた。礼を言う間もなく次の行動に移ってしまったナギの手際のよさと、ツカサから扉への軌道線上で足を止めているルーカスに、医務室から出るタイミングを完全に逃してしまった。
「……大丈夫っすかね、カーディナル先生」
「あの子が倒れているのはいつものことですし、大丈夫なんじゃないですかねぇ?」
何となく黙っていると間が持たない気がして、ツカサが無難で率直な疑問を口にすれば、ルーカスからはいつも通りの調子でいい加減な返事が返ってくる。にこにこと処置の様子を眺める様子は現状を楽しんでいるようにも見えるが、普段から笑顔を浮かべていることの多いルーカスのことだ。全く興味がないという可能性も十分あり得る。
ツカサがルーカスとの距離感を測りかねている間に、動ける程度には視界が落ち着いたのか、カーディナルが処置を施そうとするナギの手を避けるように起き上がった。
「てめぇ、勝手に起き上がるたぁどういう了見だ? 俺が許可するまで足高くして寝てろ」
いい加減にしねーと張り倒すぞ、とまで言い放ったナギだが、相手が大人しく寝ているなどと端から思っていなかったに違いない。浮かべているのは苛立ちではなく、呆れに近い表情だ。
対するカーディナルもナギの説教は予想の範疇であったのだろう。ベッドに腰を掛けたまま、面倒くさそうに舌打ちを返す。
「あ? 医者の立場で物騒なこと言ってんじゃねーよ」
「うっせーな、患者の分際で口答えしてんじゃねぇ」
「診てくれなんて頼んだ覚えはねぇ」
「毎日のようにぶっ倒れてるくせにぬるいこと言ってんじゃねーよ、餓鬼か」
「はっ。見た目クソガキなてめぇに言われたくねぇな」
「何回も同じこと言われてるてめぇは思考回路が餓鬼だな、頭に栄養いってねーだろ」
「カロリー食品ばかり食ってる奴に栄養云々説教される謂れはねぇ。他人に口出しする前に自分の食生活見直したらどうだ」
淀むことなく続けられる言葉の応酬は口を挟む隙もなく、呆気にとられるツカサの横で、ルーカスが感心したように息を吐く。
「頭のいい子同士が口喧嘩を始めると、大変ですねぇ」
「……そうっすね」
「殴り合いなら物理的に止めようもあるんですけど……あぁ、広い意味で捉えれば、言葉での殴り合いとも受け取れるかも知れませんねぇ」
閃いたとばかりに軽く手を打つルーカス。そんな彼の様子に、ツカサはうっすらと嫌な予感を覚えた。
年齢が離れており個人的に話す機会もあまりなく知っている側面の少ない相手だが、哀しいかな、こういった場面でのツカサの予感はよく当たる。
「あの……なんか物騒な予感が」
するんですけど、と続けようとしたツカサの言葉を遮るように、顔前に人差し指が静かに立てられる。
「ふふっ、嫌ですねぇ、ツカサくん。ある程度の実力行使は、終わりが良ければ許されるんですよ?」
清々しくさえも見える笑顔を浮かべるルーカスに、対するツカサはひきつった笑顔。
口論止まぬナギとカーディナルの頭上に、「喧嘩両成敗です」というにこやかな声と共に鉄拳が降るのは、ほんの数秒先の話。
fin.
2017/05/10
thanks!!
⇒ツカサ&カーディナル(翡奈月あみ さま)
