神の涙で満ちた箱庭



伸ばされた手〈後編〉


「わー、よく似合いますよ〜」

「……嬉しくない」

 にこにこと笑うフィオンの前で嘆息するのは、結った髪に花飾りをつけた特別講師のベリストゥーラ。
 北を飛び回っている彼が学院へ帰ってきていることを、フィオンが耳にしたのはつい先ほど。午後の受け持ち授業がなかったのをいいことに、花飾りを付ける為だけにベリストゥーラを探してここまで来た。目的を達成してすこぶる上機嫌なフィオンだが、相手にとっては嫌がらせに近い。尤も、嫌がることをわかっていてやっているのだが。

「可愛いですよ、ベリス」

 そう楽しげに笑顔を見せるフィオン。自分に向けられる作り笑いではない自然な笑顔に、付けられた花飾りを指で触ってベリストゥーラは苦笑する。

「……フィオン」

 名前を呼ばれて、何でしょう? と首を傾げる。そんな自分の拾い子に、ベリストゥーラは問いかけた。

「今、楽しいか?」

「えぇ、ベリスを弄るのはとても楽しいですよ?」

「……お前な」

 フィオンがわざと意味をはき違えた回答をすれば、盛大に溜息を吐くベリストゥーラ。いつも通りのやりとりに、どちらからともなく小さく笑う。

「……教職は、なかなか面白いと思っていますよ。子供は見ていて飽きませんしね〜」

 改めて問いの答えを返せば、そうか、と安堵したように頷かれる。自然な動作で伸ばされたベリスの手に頭を撫でられて、思い出すのは18年前。
 同じように自分に伸ばされたこの手は、撫でるように頬を拭っただけで、自分を壊してはくれなかった。

「……ベリス」

「ん?」

「嫌ではないですけど、私はもう子供じゃありませんよ?」

「あー……ついな、つい」

 誤魔化すように盛大に髪を乱してから離れていく、ベリスの手。乱れた髪を撫で付ける自分の手も、気が付けばあのとき自分を掴んでくれた手とさほど変わらない大きさに成長した。

「……まぁ、自分はそう簡単に何かを掴んでやろうとは思いませんけど」

 呟いた言葉はベリスの耳に届かなかったようで、何か言ったか? と尋ねられる。
 不思議そうに自分に向けられる緑色の瞳。未だに《誰か》のためにとは思えないけれど、《彼》がその目で見据える先の世界に、多少でも光を灯せるのなら。

「ここで教師を続けるのも悪くないって言ったんですよ〜。まぁ、ベリスが帰ってくる限りは、ですけど」

 にっこり笑うフィオンに、ベリスは数回、目を瞬かせて。

「……なんだそれ」

 そう、嬉しそうに微笑んだ。





fin.
2018/02/19:加筆・修正

thanks!!


⇒ベリストゥーラ(翡奈月あみ さま)

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