愛情とチョコレートタルト
感謝祭を翌日に控えた、学院の家庭科室。
エプロン姿のまま椅子に腰を下ろしたアニェーゼは、紅茶を飲みながら一息ついていた。目の前には、オーブンに入っているタルト生地の様子を窺うユーディトの姿。あまりにも真剣な表情に、娘がいたらこんな感じかしら、と微笑ましい気持ちになる。
しかし、アニェーゼがこの光景を見るのは今日だけで既に七回目。
失敗したわけではない。タルト生地は初心者が作るには少し難易度が高いが、ユーディトは元が器用なだけあって、ちょっとコツを教えただけで最初から上手に焼きあげた。
それなのに、何が気になるのか作り直すこと六回。失敗作として並べられた香ばしく焼けたタルト生地を見て、アニェーゼは苦笑する。普段、ユーディトから皇室出身の匂いを感じることは少ないが、焼き上げたタルト生地を消費することまでは考えていなさそうなところに、お姫様育ちを感じる。
クリームを敷いて職員室でお茶請けにでも出そうかと考えるが、ユーディトは自分の納得しないものを他人に食べられることは嫌がりそうだ。提案すれば反対されるだろう。かといって、黙って出してしまうのも気が引ける。
どうしたものかと頭を悩ませるアニェーゼの横で、再び焼き上がったタルト生地を取り出すユーディト。睨むように出来映えを確認する彼女の目は真剣で、放っておけばもう一回と言い出しかねない。
「……とっても上手よ?」
そう言って優しく肩を叩けば、ユーディトは慌てたように窓の外へと視線を移した。すっかり傾いた夕日に、罰が悪そうに頭を下げる。
「……すみません、アニェーゼ先生。長い時間付き合わせてしまって」
「それはいいのよ」
時間が押していることもあり、妥協したのだろうか。ユーディトは少し納得いかないような表情をしながらも、焼けたタルト生地をそっとデコレーション台へと移す。
用意してあったチョコレートクリームを流し入れて、表面を整えれば、あとは冷やして飾るだけだ。
「イェルク先生は幸せ者ね」
「子供にあげる、ついでです!」
そう言いながらも丁寧に作業を進めるユーディトを、アニェーゼは見守る。
自身の家族の顔を思い出して、優しく笑った。
fin.
2018/06/27
thanks!!
⇒アニェーゼ(翡奈月あみ さま)
