神の涙で満ちた箱庭



死が二人を別つまで


 誰も通らない授業時間帯の校舎裏。薄く敷かれた芝生にぺたりと腰を下ろして、レウェルティは空を眺めていた。
 ゆっくりと流れる雲は目に痛いくらいの綺麗な白で、きっと今日は夜まで晴れるだろう。遠くで、授業を受ける生徒の声や、武器の合わさる音が爽やかに響いている。
 目で追っていた小さな雲が校舎の屋根に隠れるのを見送ったレウェルティは、膝に感じるあたたかい重みに視線を移す。目に映るのは、決して健康とは言えない顔色で、静かに目を閉じている赤髪の男性。

「……カーディナル」

 そっと声を掛けてみるが、反応はない。
 寝ているのかとも思ったが、睡眠中に身じろぎのひとつもしないのは、逆に不自然ではないだろうか。

「まぁ、どちらでもいいけれど……」

 自分の授業がないのをいいことに学院の敷地を散歩していたレウェルティが、青い顔をして校舎裏でしゃがみこむカーディナルを見つけたのは、つい先刻のこと。
 頑なに医務室には行かないと言う彼を、妥協案として此処で休ませることにしたのはいいが、柔らかい草の上とはいえ地面に寝かせるのは気が引けて、こうして頭だけ自分の膝に乗せている。普段、彼が倒れたときには、ナギが『足を上げて頭を下げろ』と指導しているから、この体勢は絶対に正しい処置ではない。

 ないのだけれど。

 拒否する気力もなかったのだろう。されるがままに自分の膝に頭を預けている彼の呼吸は、今のところは穏やかだ。
 さらりと前髪を撫でれば、閉ざされていた唇が小さく動く。

 ──こんなはずじゃ、なかった。

 誰にともなく言い訳をするような小さな呟きは、きっと答えを期待したものではない。

「……私だって、こんなはずじゃなかったよ」

 好きになったのは自分の勝手な感情でしかなくて、彼の世界に自分の居場所など求めてはいなかった。それなのに。
 何より愛しい存在が、手の届く場所に居る。そんな奇跡のような幸せは、きっと未来の自分を殺すだろう。わかっている。これは《運命》などという綺麗な縁では決してない。
 それでも、この先、変わることなく。

「私は、キミが好きだよ」

 彼が離れて行かない限り、傍にいたいと思っている。少なくとも、自分から彼の傍を離れることは決してない。
 それは、きっと、死が二人を別つまで。





fin.
2018/06/28

thanks!!


⇒カーディナル(翡奈月あみ さま)

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