いつか灰色に染まるキミ
「サツキちゃん!」
名前を呼ばれたと同時に背中に当たる、どん、という衝撃。踏み出しかけていた足を、即座に下ろすことでそれを受けとめて、サツキは振り返る。
視線を少し下へと向ければ、予想と違わぬ人物が自分を見上げて笑っていた。
「スイレン、どうかした?」
「んー? サツキちゃんが見えたから、サツキちゃんだー!って思って」
つまり、用事はないのだろう。
そっか、と頷いて頭を撫でれば、心の底から嬉しそうに笑うスイレン。そんな無邪気な笑顔を見る度に、少なからず考える。彼女がいつか、人間になる日のことを。
憎悪、嫌悪、嫉妬、後悔、悲哀、恐怖、畏怖、憐憫、同情──数え上げたらきりがない、人間の持つ黒い感情。それらを持たない今のスイレンは、限りなく純粋だ。いつか本当の意味で誰かを好きになって、全ての感情を知ったとき、スイレンは今まで通りでいられるのだろうか。
しかし、変わらないで欲しいと思うのは、恐らく自分の我儘だ。
「サツキちゃん、好きー!」
「うん、知ってる」
例えば黒を混ぜたとして、灰色にならない白はないのだろう。
それでも、この素直な笑顔が曇ることだけは無いようにと。そう、願っている。
fin.
2019/01/19
