神の涙で満ちた箱庭



三度の好意が残すもの


 つい先日、唐突に生活に介入してきた《義妹いもうと》という存在は、想像以上に煩わしいものだった。
 サツキの事情などお構いなしに、人懐っこく寄ってきては、あれこれと話し掛けてくる。度重なる質問責めに耐えながら、課題を終わらせた頃にはすっかり予定を大幅に崩されて、休暇に実家へ帰省したことを後悔した。ルームメイトとの冷えきった空気感にすら、懐かしさを覚える。
 そして、今も縁側で庭を眺めるサツキに対して、義妹は脈絡のない言葉を投げかけてくるのだ。

「スイレン、サツキちゃんがすき」

「へぇ……そう、ありがとう」

 だから、何だというのだろうか。好きだと言うのなら、気を遣って放っておいてくれたらいいのに。
 はっきりと言いたい気持ちはあるが、相手は年下の、しかもECである。下手な事を言って、関係が悪化すれば面倒くさいことになるだろうと、無難に頷くだけに留めた。

「……俺は、自分が嫌いだよ」

「そうなの?」

 思わず、口から零れた本音。しっかりと呟いたわけではなかったが、義妹にはしっかり聞こえていたようで、不思議そうに首を傾げた。
 そして、サツキが発言を取り消す間もなく、能天気に笑う。

「でも、スイレンは、すき」

 迷うことなく言い切られて、吃驚を通りこして唖然とする。衝撃に思考が追いつかなくて、満足に反応も返せない。
 そんなサツキを気にすることもなく。

「サツキちゃんが、だいすき」

 自分の言葉に頷いて、スイレンは幸せそうに頬を緩める。
 その姿にほんの少しだけ、腹立たしいような泣きたいような感情を覚えて。

「……馬鹿だね、スイレンは」

 嘆息するように呟いた。





fin.
2011/06/08:公開
2019/05/16:加筆・修正

神の涙で満ちた箱庭
七つの水槽