親愛を告げる糸
窓を閉ざした医務室は、静かだった。耳に入るのは、遠くから僅かに聞こえる授業の喧騒と、自分の横たわるベッドの縁に腰かける兄が本を捲る音だけ。
上体を起こしたまま、その横顔を眺めながら、ノインは口を開く。
「……ジーベン兄さまは、わたしたちが嫌い?」
「何ですか、藪から棒に」
唐突なノインの問いかけに、視線だけをこちらへ向けるジーベン。特に驚いた様子もなければ、呆れる様子もない。
「嫌いではありませんよ。どうでもいいだけです」
返ってきたのはいつも通りの答えで、わかってはいたが胸が痛い。
そう、とだけ呟いて目を伏せれば、視線も合わさないままに薄く微笑まれる。
「そんなに悲しそうな顔をすることではありませんよ。片親の違う兄弟なんて、生まれつきの地位が高ければ、そんなものです」
「違うの、兄さま。悲しくない。……悲しいわけじゃないの」
否定するノインに、ジーベンは本を閉じる。振り返るようにしてノインの顔を覗き込むと、首を傾げた。
「……悲しくないと言いながら、貴女はどうして泣くんです?」
言われて、初めて気が付く。涙が伝う感触に、自分の頬へとわずかに触れて、ノインは尚も首を振った。
「嘘じゃない、悲しくはないの」
そう、悲しいわけではない。
一国王の血を引く子供として、違う母親から生まれた以上、普通の家族のように仲良くできるはずがない。それが当然だと考えて、みんなが割りきって暮らしている。仲良くすることなんて、望んですらいないだろう。
だから、これは自分の偽善だ。権力や血筋のしがらみなんてなくなって、兄弟みんなが仲良くできる日がくることを望んでいる。例え、そこに自分がいなくても、皆が笑い合える未来を願ってしまう。
自分に未来がないことを、悲観する時期はもう過ぎた。涙が溢れる理由があるとするならば、そんな《いつか》を夢見ているのが、自分だけしかいないこと。
それだけが、どうしようもなく。
「……………寂しい」
小さく呟いて泣くノインに、僅かに困ったような表情で、ジーベンは笑う。
「……貴女は本当に、手のかかる妹ですね」
そう言って髪を撫でる手は、疑いようもなく優しいのに、瞳はどこか冷めている。きっとこの先、彼が自分を『好き』だと言ってくれることはない。
確信にも近いそんな予感を抱きながら、それでも。
「……わたしは、お兄さまが好きよ」
涙に濡れた声で告げれば、やはりジーベンは黙ったまま。
ただ、静かに微笑んだ。
fin.
2019/01/22
