神の涙で満ちた箱庭



初恋は叶わない


 ──ごめんね。
 レヴィが人間になったことを喜んだ彼女は、原因が自分であることに戸惑って、困ったようにそう告げた。

「どうして、貴女が謝るの? 俺は、応えて欲しいから好きになったわけじゃない」

「そうなんだろうけど……何か申し訳ない気がしちゃうの。初恋って、特別でしょ?」

 確かに、初恋は特別だろう。特にECにとっては、思い出以上の意味を持つものだ。実際に経験して、生身となった身体を見下ろせば、未だに不思議な感覚になる。

「でも、考え方によっては、全く特別なことじゃないよ。初恋は叶わないって言うし」

 貴女の初恋は叶ったの? と問いかければ、余計なお世話だと小突かれた。

「叶ってたら、もう少し早く結婚してますーぅ」

 子供のように頬を膨らませる、年上らしさの欠片もない彼女の所作。いつもと変わらないその様子に、レヴィは思わず苦笑して、同時に安堵する。
 そう、何も特別なことはない。初恋を叶えられる人の方が稀なのだから、ただ、人としての大多数に入っただけだ。

「……あのさ」

 拗ねた彼女に呼び掛ければ、なに? と口を尖らせたまま首を傾げられる。

「初めて好きになったのが、叶わなかった初恋の相手が、貴女でよかったって。そう、俺が思っていられるように──ずっと、幸せでいて」

 左手の小指を立てて差し出せば、瞳を瞬かせた彼女の視線が、小指と顔とを往復する。驚いたように開かれた瞳は、困ったように伏せられて、泣きそうに歪んで。

「……ありがとう、レヴィ」

 そっと小指を絡ませて、最終的に彼女は笑う。
 薬指に光る綺麗な指輪が、幸せそうな笑顔に、とてもよく似合っていた。





fin.
2019/05/18

神の涙で満ちた箱庭
七つの水槽