神の涙で満ちた箱庭



ありがとうの意味


「ツカサ・キリシマ教師」

 職員室に程近い廊下。視界に捉えた目的の人物に、エフィは静かに声を掛けた。名前を呼ばれて振り向いたツカサは、自分へと歩み寄るエフィの姿を認めると足を止める。
 どうした? と首を傾げるツカサに、エフィは手にしていたプリントを差し出した。

「スオウ・タチバナ教師から、預かりました。貴方に渡すようにと」

「俺に? そっか、ありがとな」

 受け取ったプリントに目を通すツカサの横で、エフィは次の指示を待つ。何もないと言われれば、真っ直ぐ教室へ戻るつもりだった。

「そうだ、エフィ。手、出してくれるか?」

 顔を上げたツカサの言葉に、身体の横に軽く添えていた右手を、そのままの向きで差し出す。苦笑したツカサに掌を上に向ける形に返されたと思えば、固くて軽い何かが転がされた。
 それは、包装紙で包まれた飴玉。

「教材運びとか、よく手伝ってくれてるからな。子供だましで悪いけど……」

 他の生徒には内緒だぞ? と笑うツカサと、掌で転がる飴玉を、じっと見比べる。
 確かに、労働には報酬が支払われるべきである。だが、教師の手伝いは生徒の役目であるはずだ。少なくとも、報酬など必要のない事柄だろう。
 自分には、受けとる理由がない──そう言いかけて、ふいに先程の出来事を思い出す。
 エフィの手から滑り落ちたプリントを拾ったスイレンは、親切にして貰ったらお礼を言うのだと語っていた。
 この飴玉は報酬などではなく、労り──親切、なのだろうか。

「あ……り、がとう、ございます」

 言い慣れない響きに少し小首を傾げながら、それでも真っ直ぐにツカサの目を見て、エフィは告げる。
 ツカサは少し驚いたように瞬いて。

「……どういたしまして」

 嬉しそうに微笑んだ。





fin.
2019/05/25

thanks!!


⇒ツカサ(翡奈月あみ さま)

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