偽証の愛
男を誘うのが上手い女、というのは存在する。それは、天性の才能であったり、緻密な計算であったり、教え込まれたものであったりするだろう。
目の前にいる、この女のように。
クゥシンと名乗った下級生は、値踏みするようなスヴェンの視線を受けて、不思議そうに首を傾げた。
こちらを見上げる表情は、嫌みのない上目遣い。剥き出しの肩をさらりと滑り落ちた明るい黒髪が、白い肌によく映える。
その純真そうな表情のみならず、仕草までもが計算され尽くしたもののように見えてしまうのは、自分の穿ったものの見方のせいだろう。一般的な男の感覚ならば、彼女の一挙一動は異性として充分に魅力的であるはずだ。
──自分には、わからない感覚だが。
「ねぇ」
生徒も少ない休日の静かな図書館。ほんのり甘さを含んだ声に呼び掛けられて、スヴェンは書棚から一瞬だけ視線を外す。
「あなたは、女性に何を求める人?」
「……従順さ、だろうな」
学年を跨いだ合同授業のレポートを作成する途中、成り行きで交わされる他愛ない雑談。目的に関係のない会話など無駄でしかないが、聞いているのかと同じ質問を何度も繰り返されることも煩わしい。
目当ての本を棚から引き抜きながら、投げ掛けられた疑問に対する答えをスヴェンは口にする。
「従順な女は、面倒くさくなくていい」
我儘な女は駄目だ。女の機嫌をとる行為ほど不毛なことはない。そもそも、己れの機嫌もとれない女に使う時間など、初めから持ち合わせていないのだが。
スヴェンの率直な返答に、納得したような感心したような相槌を打つクゥシン。じゃあ、と思い付いたように口にする。
「もし、私が従順な女でいられるのなら──あなたは私を愛してくれる?」
まるで天気の話をするかのように自然な声音で、そう続けたクゥシンに、スヴェンは本のページを繰る手を止めた。視線を上げれば、先ほどと変わらない無垢な表情が目に映る。
「……なるほど」
そういう生き物なのだろう、この女は。
本を閉じて、クゥシンの方へと一歩踏み出す。手を伸ばせば、引き寄せられるかのようにするりと手元へ寄ってきた彼女の頬に指が触れる。
「ガラクタのように、無価値な愛でもいいのなら」
当然のように自分の手に重ねられた華奢な手を引き寄せて、ほんの気まぐれに口付ける。
そんな一時の些細な行為さえ《特別》だとでもいうように、幸せそうに少女は笑った。
fin.
2020/09/28
