例えば、これ以上の幸せがあるとして
「……というワケで。俺は風邪をひいたらしいんですよ、ハニー?」
無意味な疑問符で話を締めくくり、レヴィは目の前に立つハニー──魔術科教師であるプルーアを見上げた。自分より身長の低いプルーアを見上げる形になっているのは、レヴィ自身がしゃがんでいるからであり、しゃがんでいるのは視界がぐるぐる回って立っていられないから。頭は痛いし、喉は痛いし、身体は重いし、疑いようも無い体調不良。
ただの風邪とはいえ、プルーアに
そんなことを考えていれば、優しい手つきで頭を撫でられた。いつの間にか頭ごと下がっていた視線を上げれば、先程よりも至近距離でプルーアと目が合う。
「……ハニー? あまり近付くと
「あら、そんなにやわではなくてよ。……早く帰って、大人しく寝なさいな」
離れなければと思うのに、後退するだけの動作が億劫で。何より頭を撫でる手が心地よくて、距離をとろうとは思えない。
とりあえず、顎の下に手を入れて、下がりそうになる視線を固定した。
「俺、一回帰ったんだよ? 具合悪いしね? でも、忘れたから」
「あら、何か忘れものでもしたの?」
頭を撫でていた手を引いて、首を傾げたプルーアに、レヴィは思わず口元を緩める。
年上の女性を形容するには適切ではないのだろうが、不思議そうに自分を見やるその表情は『可愛い』という表現がしっくりくる。
誰が見ても“美人”だと形容するであろう、彼女の中の“可愛い”部分。意外に思って目で追っていれば、それを見つけるのが楽しくなって。それが『恋』だと自覚したのは、一年ほど前のことだろうか。
それ以来、決まったように、一日一回。
伝えないと気が済まなくて、落ち着かなくて、物足りない。早退して寮の自室に戻ったものの、忘れたことに気付いてしまえば寝ている気にもなれなくて、その為だけに戻ってしまった。
名実共に“大人”である彼女から見れば、経済力もなく気の利いた台詞も言えず、ましてや自分の体調すら省みずに衝動だけで動いてしまう自分など、まだまだ“子供”でしかないだろう。
それでも、気持ちは本当だから。
「……好きだよ」
中途半端な位置で浮いていた綺麗な指先を、少しだけ引っ張って伝えれば。
「……困った子ね」
少しだけ、呆れたように苦笑される。
風に運ばれてきた花の香りを感じながら、単純に『幸せ』という単語が脳裏に浮かんだ。
例えば、これ以上の幸せがあるとして。その瞬間に隣で笑っていてくれるのが、この人だったらいいのに。
──心から、そう思った。
fin.
2011/08/08:公開
2019/05/17:加筆・修正
thanks!!
⇒プルーア(翡奈月あみ さま)
