神の涙で満ちた箱庭



解かない恋愛方程式


 女の子であれば、きっと一度は考える。
 物語のように胸が高鳴る素敵な恋に、愛を誓ってくれる運命の人。恋に恋して憧れて、シャーリーンは、ふと気が付く。
 そもそも、恋とは──好きだという気持ちは何だろうか。
 一緒に育った兄弟たちのことは“好き”だ。その感情を家族愛だと思ってきたが、彼らとは血が繋がっているわけではない。血が繋がっていないのだから、施設を出れば結婚することもできる。実際に結婚した兄姉もいた。友愛と呼ぶ類いのものかとも思ったが、友人に対する気持ちとは、また違う気もする。それならば、恋愛の“好き”とはどう違うのだろうか。
 一人で悩んでみたものの、お世辞にも賢いとは言えないシャーリーンの頭では、答えは全く出そうにない。
 ──となれば。

「教えて、サツキ先輩!!!」

「……シャルちゃん。そういうのは俺なんかよりも、人生経験の豊富な先生たちに聞いた方がいいんじゃないかな」

 胸ぐらを掴まん勢いで詰め寄ったシャーリーンは、困ったように微笑むサツキにやんわりと押し返されて、一歩下がる。自分でも少し勢いが良すぎたと反省するところなので、特に抵抗することなく大人しく。

「聞けないですよー。何かの拍子に古傷を抉りそうで、怖いもん」

「まぁ、確かに……」

 シャーリーンの訴えに、納得したように頷くサツキ。様々な事情を抱える生徒がいる以上に、過去に複雑な経験をしている教師も多い。古傷を抉りそうだというシャーリーンの懸念にも、一理あると思ってくれたのだろう。
 しかし、当然ではあるが平穏に家庭を築いている教師もたくさんいる。相手を選んで聞くのも選択肢だろうが、相手は先輩ではなく教師だ。さほど接点もない教師に踏み込んだ恋愛話を振れるほど、シャーリーンも空気を読まない子供ではない。
 再度、どうしたものかと頭を悩ませて、ひとつだけ方法を閃いた。実現するには、あまりに現実味のない方法だが、確実で簡単ではある。

「手っ取り早く、先輩を好きになったらわかるのでは!?」

 口に出してみれば、益々のこと現実味がない。冗談混じりに笑うシャーリーンの、自身を巻き込んだ突然の提案に、きょとんとしたようにサツキは首を傾げる。
 そして、少し考えるように目を閉じて。

「それは……どうだろうね?」

 優しく微笑んだ。
 その笑顔に不覚にも胸が高鳴ったから。

「むむむ……先輩のたらしー」

 サツキにだけは絶対に惚れてやるまいと、シャーリーンは心に誓ったのだった。




fin.
2012/01/20:公開
2019/05/17:加筆・修正

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