薬包紙とトリュフ、と。
授業がないのをいいことに、薬包紙に広げられたトリュフをつつきながら、ユリウス、トイ、サイラスの三人は無駄話に花を咲かせていた。今日が感謝祭ということもあり、自然と話題もそれに沿う形となる。ちなみに生姜入りトリュフは未だに出ていない。
目下の話題は義理チョコを渡す基準についてだ。生徒の数も多ければ教師の数も多いこの学院。全員に、とはいかなくても相当な量になってしまうだろう。男性陣二人からの尤もな疑問に、トイは頷く。
「そうだね。普段から接点のある教師だけに絞っても、結構な人数になってしまうからね。大雑把だけど担当が割り振られているんだよ。ちなみに僕は二人を含めて六人にしか渡してないから少ない方かな」
「そりゃ、ご苦労なこって」
「女の人って効率的だよね」
褒めているのか嫌味なのか微妙な線をたどるサイラスの発言にユリウスは思わず顔をしかめたが、トイは素直に前者で受け取ったらしく笑っている。
「でも、義理チョコっていっても渡し難い相手もいるよね。カーディナル先生とか貰えるの?」
「……お前、普通に失礼だな」
「朝のうちにルシル教師が渡していたよ? でも、僕は苦手だな」
嫌いじゃないけど、と言いながらトリュフを口に放り込むトイ。生姜は入っていなかったようで、右隣りに座るサイラスに次を促す。促されたサイラスはトリュフを手に取り、それを少し眺めてから口に運ぶ。特に何もなかったのか飲み込んで、コーヒーを一口含むと口を開いた。
「それにしても、感謝祭は可愛い行事だけど、鬼ごっこが面倒くさいよね」
「まあ、そうだな。好き好んで追われる奴の気が知れねぇ」
具体的にはエーヴェルトとかセオフィラスとか。感謝祭が近付くだけでテンションの下がる大半の男性教師とは反対に、追われる状況を楽しんでいる節がある。華やかな行事の陰の被害者と言っても過言ではない男性教師である二人の尤もな発言に、トイは思い出したように手を打った。
「そういえば僕、二人に謝らないといけないことがあるのだけれど」
「……なんだよ」
次のトリュフを見定めていたユリウスは何事かと身構え、コーヒーを飲み干したサイラスは首を傾げる。そんな二人に謝るように眼前で両手を合わせたトイは、爆弾発言──否、この日に限っては爆弾という表現では生温い発言を投下する。
「鍵、閉め忘れた」
笑顔で放たれたトイの言葉に、一瞬、二人の思考が止まった。計ったようなタイミングで響いたノックの音と、同時に聞こえた生徒の呼び声に、我に返る。
「お……っ前!」
「うん、ごめんね。反省しているよ」
誤魔化すように頬に指を添えるトイに言いたいことは山ほどあるが、責める時間もないので一旦さておき、ユリウスは思案する。
今からでも鍵を閉めるべきか。しかしそんなことをすれば、ここに居ますと言っているようなものだ。教師も曲者揃いなら、生徒も曲者揃いなこの学院。鍵を開けられるのは時間の問題だろう。必然的にひとつに絞られる選択肢に、思わず舌打ちする。
「鬼ごっこ参加は免れないみたいだね」
少し困ったように笑うサイラスの身体は、既に窓枠の外。器用に窓枠に掴まっているサイラスに、感心したようにトイが声をかける。
「そういえば、サイラス教師は武術科の卒業生だったね」
「そうだね。でも初等部は魔術科だったんだよ?」
「……呑気だな、お前等」
普段通りのペースで交わされるやりとりに、思わず危機感も忘れて脱力しそうになった。
しかし、再び響いたノックの音に、危機感も再び湧き上がる。面倒くさそうに嘆息したユリウスに、サイラスは諦めたように肩をすくめた。
「ユーリも来なよ。早くしないと袋のネズミだよ?」
「まな板の上の鯉とも言うね」
「誰のせいだよ!」
二人に急かされて、ユリウスは窓枠に足をかける。
「頑張れ、二人とも〜」
背後からかけられた悪びれないトイの声に、後で面倒くさい構築式でも解かせてやろうとユリウスは心に決めた。
fin.
2012/04/04:公開
2019/01/14:修正
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⇒ユリウス&カーディナル(翡奈月あみ さま)
