神の涙で満ちた箱庭



とあるECの不理解


 それは、いつの頃だっただろうか。
 フェレナンドは一度、目の前の少年に訊ねたことがある。お前は殺しが嫌ではなかったのか、と。

「軍属っていう立場は気に入らないけど、殺しがイヤだなんて思ったことはないよ?」

 楽しそうな笑みさえ浮かべて、ルンは更に続けたのだ。

「だって、殺さない生き方なんて知らなかったもん」

 誰も殺さなくても生きていけるなんて知らなかった、と。さも当然のように、あっさりと言い切った。

 ──勝てるはずがないのだ。
 家庭用のECとして生み出された自分とは、生きてきた世界が根本的に違う。
 生きる為には勝たねばならない。そんな切迫した状況を生き抜いてきたことこそが、この小さな少年が全ての戦闘訓練に於いて自分を凌駕する理由。
 命を賭けたことのない自分の戦い方など、所詮は子供の八つ当たりに等しいのだ──そう、思い知らされた気分だった。

「……それでも、理解はしたくない」

「よくわからないけど、いいんじゃない? 興味ないしー」

 全てを拒否するかのように、静かに目を閉じたフェレナンドを、明るく突き放してルンは笑った。





fin.
2012/06/03:公開
2019/05/16:加筆・修正

神の涙で満ちた箱庭
七つの水槽