神の涙で満ちた箱庭



あどけなさの温度


 とある日の神の涙学院、医務室にて。
 ソファの代わりにベッドへと腰を下ろすクロムは、後頭部に氷嚢を当てていた。隣には、覗き込むように此方の様子を窺ってくるスイレン。興味深そうに氷嚢へと手を伸ばして首を傾げる。

「クーちゃん、いたい?」

「……当たり前だろ」

「えっと、ごめんなさい?」

 いつも通りの疑問符のついた謝罪に、ため息しか出てこない。スイレンが上辺だけの謝罪しか出来ないことは解っているから、仕方がないと割り切ってはいるけれど。

 合同授業で接点を持って以来、絡まれるようになって早数ヶ月。良いのか悪いのか、クロムはスイレンの突拍子のない行動にも慣れつつあった。
 唐突に追突されようが降って来られようが何とかなるようにはなってきたが、今回ばかりはタイミングが悪かった。階段の真ん中、足を踏み出したばかりの不安定な瞬間に飛びつかれれば、流石に体勢を立て直せなくて。結果、後頭部を強打するという災難に見舞われることになったのだ。

「人目とか場所とか、考えろっていつも言ってるだろ……」

 未だ引かない鈍痛に、大声を出す気力はない。
 悲痛ですらあるクロムの訴えに、んー、と顎に指先を添えて首を捻るスイレン。暫く黙って考え込むような素振りを見せていたが、何を思ったのか笑顔で顔を上げた。

「えいっ!」

「ちょ…っ、だから言ったそばから……!」

 再び、勢いよく飛びつかれる。至近距離から不意打ちに近い状態で体重をかけられれば、今度は背中からベッドへと倒れ込むはめになった。
 半ばクロムにのし掛かるような体勢で、スイレンは口を開く。

「クーちゃんは、あったかいね!」

 見当どころか色々と間違えたその回答に、一気に襲い来る脱力感。

「……何をどうしたらそうなるわけ?」

 背中をベッドに預けたまま、もう一度ため息。
 そのまま視線を上にずらせば、窓に切り取られた空は雲ひとつない快晴で。

「見て見て、クーちゃん!」

「……何を」

「お空まっさおー」

 きれーいと笑う幼さ全開のスイレンに、何かもう。

「あ、そ……」

 色々と諦めることにした。





fin.
2012/11/20

thanks!!


⇒クロム(翡奈月あみ さま)

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