神の涙で満ちた箱庭



試験勉強と昼下がり


「ヘリィ、お願い。見捨てないでぇ……」

「とりあえず、見捨ててないから。手、動かして」

 教科書やノートが散乱する机に突っ伏して、リゥシャオは情けない声をあげた。対するヘルウェレスは、いつも通りの無表情。全く動かない表情に反して、その手はすらすらと計算式を羅列していく。
 ヘルウェレスの手によって生み出される、数字と記号の入り混じった式を目で追って、リゥシャオは眉間にしわを寄せた。

「ヘリィ……その頭が痛くなりそうな式、なに?」

「召喚術の中級理論式。去年とカリキュラムが一緒なら、リゥも授業でやったはず」

「うーん……やったような、やってないような……」

 ヘルウェレスの言葉に記憶を探るが、いまいちピンとこない。授業は努めて真面目に聞くようにしているが、全く思い出さないところを見ると、寝たのかも知れない。
 リゥシャオが記憶と格闘している間に、式を書き終えたヘルウェレス。その紙をリゥシャオに差し出して、やはり淡々と告げる。

「これ、絶対に出るから」

 覚えて、と示された長い理論式に、リゥシャオは露骨に顔をしかめた。嫌々ながらも紙を受け取り、視線を落とす。
 そんなリゥシャオの様子を確認して、ヘルウェレスは自分の教科書を開いた。

「今日中に覚えて。明日は続きを教えるから」

「えー、明日は仕事」

「リゥは働きすぎ。試験前くらい、勉強時間を確保すればいいのに」

「そんなこと言われても〜……」

 確かに、試験前くらいは勉強を優先するべきだとは思う。
 しかし、大して裕福でもない孤児院からの仕送りに、甘えるわけにはいかないのが現実だ。弟妹に必要以上の我慢はさせたくない。

「……仕方ないよねぇ、親は選べないし」

 そう何となく呟けば、黙ってしまうヘルウェレス。彼の妹のように表情を読めるわけではないが、気まずいのだろうとリゥシャオは察する。
 周りが同じ境遇だったせいで、親の存在を気にすることも、現状を苦に感じたこともないが、やはり気にしてしまうのだろう。

「あのさ、ヘリィ」

 気にしないで。そう言おうとして、やめた。本人が気にしていることに気付いていないのならば、きっと逆効果だ。
 名前を呼ばれたことで顔を上げたヘルウェレスに、リゥシャオは。

「代わりに、友達運はいい方だと思うよ。ヘリィは優しいしねぇ?」

 式の羅列された紙を揺らして、いつも通りにへらりと笑う。そんなリゥシャオに、そう、とだけ呟いて、ヘルウェレスは再び教科書へと視線を落とした。





fin.
2012/11/30
2019/06/02 加筆・修正

thanks!!


⇒ヘルウェレス(翡奈月あみ さま)

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