神の涙で満ちた箱庭



螺旋に秘めた潜在感情


 何となく空を見上げれば、頭上には雲ひとつない青い空が広がっていた。眩しいくらいの青色に、レラウェリィは目を細める。

「エフィくん、空が青いですよ」

 そう指で示せば、三歩後ろを歩いていたエフィも視線を上げて。

「……そうですね」

 ひとつ、頷いた。

 レラウェリィは今、エフィと連れ立って医務室へと向かっていた。クロムが頭を打ったらしいと聞き、様子を見に行く途中なのだが……かえって迷惑だろうか。
 そんなことを考えながら、時折後ろに視線を向けて、エフィが付いて来ていることを確認する。

『一緒にお見舞いに行きませんか?』

 そう訊ねたレラウェリィに、エフィは黙ってついてきた。
 反応が薄いのはいつものことだが、無理をさせていないかと心配になる。エフィが何も主張しないのをいいことに、自分たちの都合で振り回してしまっている気がして。

「……エフィくんは」

 思わず足を止めれば、並んだところでエフィも立ち止まる。

「私たちと居て──……その、楽しい…ですか?」

 そっと窺うように顔を見れば、いつも通りの無表情。何の色も滲まないエフィの瞳を見て、レラウェリィは困ったように笑う。

「……ごめんなさい、変なこと聞きましたね」

 忘れて下さいと呟いて、歩き出したレラウェリィ。そんな彼女が数歩遠ざかるのを見送っていたエフィが、ふいに口を開く。

「……『楽しい』かどうかは、わかりませんが」

 耳に届いた声に、振り返る。レラウェリィの目に映るのは、やはり何も読み取れない無表情。
 ──それでも。

「体感時間は短く感じられます」

 淡々と、何の感動も無く告げられた言葉。その意味を理解して、レラウェリィは笑顔を浮かべる。

「そうですか」

 頷いて、再び歩き出すエフィ。レラウェリィも、自分のペースで歩を進める彼が近付くのを待って、前を向く。
 澄んだ青空の下を、風だけが慌ただしく駆けて行った。





fin.
2012/11/20

thanks!!


⇒レラウェリィ(翡奈月あみ さま)

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