神の涙で満ちた箱庭



始まらない鬼ごっこ


「クロー……クローってば!」

 甲高い声に呼ばれて、はっとクローディオは目を開く。
 総じて穏やか空気の流れる昼休み。少し休憩するつもりで椅子に背を預けて目を瞑れば、完全に意識を飛ばしてしまったらしい。慌てて時計に目をやり、次の授業まで十分な時間が残っていることを確認して、胸を撫で下ろした。

「なに居眠りしてんだよ。戦線を離脱して、早くも平和ボケか?」

 ツインテールの揺れる子供の姿で不服そうに口を尖らせるのは、クローディオの使い魔であるローゼンクランツ。同じく、ギルデンスターンも隣に立つ片割れの腕を掴んだまま、同意するように首を縦に振った。

「……お仕事中、なのです」

「全くだ。しっかりしろよ、クローディオ」

 やれやれというように嘆息されて、クローディオは苦笑する。確かに、賞金稼ぎとして生活していた頃に比べたら、気が緩んでいるかも知れない。

「ごめんごめん。……で、どうした?」

 わざわざ起こしに来たということは、用事があるのだろう。クローディオに訊ねられて、ローゼンクランツは不満そうな表情を一変させる。口調までもをころっと変えて、にっこりと微笑んだ。

「クローディオ。おやつ、ちょーだい?」

 芝居がかった動作で首を傾げる使い魔に、今度はクローディオが呆れたように嘆息する。

「……十時に食べただろ」

「食後のおやつ!さっきはさっき、今は今なの!」

 ローゼンクランツが熱を込めて訴えるも、首を横に振るだけでクローディオは取り合おうとしない。
 頑なに相手にしようとしない主人に、不満そうに口を尖らせたローゼンクランツは、食い下がることを早々に放棄して踵を返す。ギルデンスターンの手を引き、クローディオから十分な距離を取る。
 怪訝そうな視線を向けるクローディオを振り返り、得意気に口角を吊り上げた。

「別にいいもん。クローがくれないなら、カーナー先生に貰うから!ギル、行こ?」

「お前ら、余所様に迷惑をかけるのは……」

「知ーらないっ」

 クローディオの説教を途中で遮り、二人は駆け出す。

「クローの意地悪!!!」

「……なのです」

「あ、こら!ロゼ!ギルも……!」

 二人を追うように立ち上がるクローディオ。
 しかし、元から距離を置かれていた上に、相手は自分の使い魔だ。追いつけないことは身を持ってよく理解している。
 物陰の暗闇に溶けて消えた二人を追うことはせずに、諦めて再び椅子に腰を下ろした。

 そんな、いつもの出来事。





fin.
2012/11/29
2019/05/17:加筆・修正

name thanks!!


⇒カーナー(翡奈月あみ さま)

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