勿忘草の詩(after)
計時機関の一画に設けられた、時計屋の居住区。その談話室の窓際に、黄色いチューリップを生けた花瓶が飾られた。
「どうした? いきなり花なんか飾って」
ソファーに座って雑誌を捲っていたハチヤは、花瓶を置いた張本人──テンに怪訝そうな顔を向ける。首を傾げるハチヤに、テンは黄色い花弁をつつきながら首を振った。
「別に意味なんてないけど。今回のお姉さんが買ってたから、試しに買ってみただけ」
でも綺麗だね、と笑うテンに、ハチヤは傾けていた頭を元に戻した。
お姉さん、というのは回収したというタイム・セルに侵されていた女性の話だろう。普段から対象に興味を示さないテンにしては、珍しいこともあるものだ。
開いた窓から入る風に、黄色い花が静かに揺れる。
「……叶わぬ恋、か」
ハチヤが何となく呟いた言葉に、今度はテンが首を傾げる。
「それって、花言葉? もしかして、ハチヤって意外とロマンチストなの?」
「別に。……姉貴が好きだったんだよ」
「あぁ、なるほどねー」
納得したように頷いて、チューリップへと視線を戻すテン。花瓶の前で頬杖をつく。
「……叶わぬ恋、ね。意外と違うのかも知れないよ?」
楽しそうに呟かれたその言葉に、ハチヤは雑誌へと戻しかけていた視線を上げる。再び首を傾げたハチヤに、テンはいたずらっ子のような含み笑いで告げた。
「永遠の愛情、とかねー?」
「……ロマンチスト?」
「女の子だから、セーフでしょ」
都合のいいときだけ少女ぶってみせる同僚に軽く息を吐いて、ハチヤは今度こそ雑誌に視線を戻した。
fin.
2012/02/05 公開
2021/05/13 修正
