ある朝の出来事
とある早朝、実務課の仕事部屋。ソファで寝息を立てるリミルトを前に、アッシュは迷っていた。
リミルトの手には書類が握られており、恐らくうっかり寝入ってしまったというところだろう。同じように書類仕事に追われ、徹夜明けである身として気持ちは十分にわかる。わかるのだが、呑気に寝かせていられる状況ではないのが現実だった。
実務課に回ってくる事務仕事の内容は、事務情報課に比べればたかが知れている。だが、量があればそれなりに忙しい。特に今回のように要人警護に人手を取られている時期にぶつかれば尚更だ。
リミルトの勤務態度が普段から真面目なだけに、叩き起こすのは忍びないが、早急に仕事を終わらせてしまいたいのも山々。どうしたものかと良心の呵責に苛まされて息を吐けば、後ろから笑いを含んだ声がかけられる。
「なに怖い顔してんの、アッシュ」
しわ寄ってる、と眉間をとんと叩き、手にしたマグカップを傾けるのは先輩であるヴィオレント。自分たち同様、夜を徹して書類を片付けていたはずなのに、涼しい顔で笑っているのは経験の賜物なのだろうか。
寝不足で回転の悪くなっている頭でそんなことを考えながら、視線をソファの上のリミルトに戻せば、ヴィオレントも彼へと視線を向ける。納得したように頷き、リミルトの手から書類を抜き取った。一瞥して、アッシュに差し出す。
「……は?」
「書類の2・3枚くらい面倒みてやればいいじゃん、先輩?」
首を傾げながら当然のように書類を押し付けてくるヴィオレント。やっぱりそうなるのかとアッシュは半ば諦めながらも、ささやかな抵抗として嫌味っぽく付け足してみる。
「……手伝ってくれませんかね、先輩?」
同じ要領で問い返してくるアッシュに、ヴィオレントは面白そうに笑って肩をすくめた。
「残念。俺はこれから外回り」
頑張れ後輩、とアッシュの頭に手をぽんと乗せて、ヴィオレントは椅子に置いてあったコートを引っかける。そのまま手をひらひらさせながら出ていく先輩の背中を見送って、アッシュは増えた書類に視線を落とした。
大した量ではないが、終わりが見えていただけに少しげんなりする。枚数を確認すれば本当に大したことはなくて、逆に目の前の穏やかな寝顔が小憎たらしく見えてくる。
「……これしかないなら、終わらせてから寝ろよ」
八つ当たり気味にリミルトの額を軽く小突いてみるアッシュ。それでも起きる気配は全くなくて、息を吐くように苦笑した。
そんな、ある朝の出来事。
fin.
2012/04/24 公開
2018/10/18 修正
thanks!!
⇒ アッシュ(翡奈月あみさま)
⇒ リミルト(サラキさま)
