Crack Clock



自由時間の貰い方


 使い慣れない資料室で、ディリスはメモを片手に苦戦していた。いつもと勝手が違うせいか、資料ひとつ探し出すのにも時間がかかって仕方がない。舌打ちしたくなる衝動を抑えて、冷静に棚へと視線を走らせる。
 現在、ディリスがいるのは計時機関の資料室ではなく、地方の役所に併設された資料室だった。非合法とも捉えられる計時機関は、公の国家機関という枠に含まれない。そのため、環境調査に派遣された別の機関の公務員だと身分を偽って資料室を利用している。
 しかし、実際に行っているのは当然、タイム・セルの調査だ。大陸の西方に位置するこの街で、タイム・セルによる現象だと思われる不可解な事象が発生するらしい。その情報を掴んだ計時機関に派遣され、実地調査のために街へたどり着いたのはつい先程のこと。長時間の移動の疲れを癒す暇もなく、同行しているトゥーリアに資料室へと連れて来られた。
 限られた人数しかいない時計屋を、確証もないのに地方に飛ばすわけにはいかない。事前調査もタイマーの大切な仕事のひとつなのだから、気を引き締めて臨みなさい──というのは、先輩であるトゥーリアの言葉。彼女の仕事に対する姿勢は尊敬しているが、休憩時間くらい与えてくれてもいいのではないだろうか。

「……しかも、観光地でセル調査とか」

 げんなりと、ディリスは嘆息する。
 この街は昔から観光地として有名で、資料室の至るところに名所の歴史をまとめた本や資料を見つけることが出来た。仕事が嫌ということはないが、わざわざ汽車に長時間揺られてまで観光地に来たというのに、行動できるのが調査範囲だけというのは如何なものだろう。
 何とはなしに呟いたディリスの言葉は静かな資料室に思いがけずもよく響き、街の地図を確認していたトゥーリアが顔を上げる。

「今回は時間に余裕があるので、仕事が終われば自由にして構いませんよ」

 帰還予定は遅らせませんけど、といつもの調子でしっかり付け加えたトゥーリア。それでもディリスは驚きを隠せずに、思わず彼女の顔を凝視する。

「……なんですか、ディリス。口が開いてますよ」

 そう指摘され、口を閉じる。
 しかし、直ぐに、今度は言葉を発するために口を開いた。

「いや……てっきり『観光に来たワケじゃありません』とか、問答無用で一蹴されると思って」

「……お望みならそうしますけど」

「え? あ、いや、今のなしで!」

 駄目だと言われれば諦めるが、許可が得られるのならばそれに越したことはない。うっかり口から失言を滑らせ、それを慌てて取り消すディリス。そんな忙しない後輩に息を吐いて、トゥーリアは手元の資料へと視線を戻す。

「時間に余裕がなければ直帰ですからね。自由時間が欲しければ、早く頼んだ資料を探して下さい」

 どうやら自由時間を得るために、慣れない環境での資料探しは必須項目らしい。必要な資料の羅列されたメモを見直して、ディリスは顔をしかめる。
 地図を畳んで別の資料を確認し始めてしまったトゥーリアの手伝いは期待出来そうになく、一緒に派遣された実務課のタイマーとは別行動中。
 しかし、歴史書などが無駄に幅を取る資料室の中、一人で探すことにも限界を感じる。どうしたものかと首をひねって考えていると、痺れを切らせたトゥーリアから叱責が飛んだ。

「ディリス!いつまでぼーっと突っ立ってるんですか!」

「はいはい、今やりますよって!」

 他の方法を探すことを諦めて、ディリスは再び地道に棚へと視線を走らせた。





fin.
2012/07/21 公開
2018/10/18 修正


thanks!!


⇒ ディリス(サラキさま)

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