Crack Clock



偶然の邂逅と不可視の未来


 それは本当に偶然だった。店にはたまたま客がいなくて、天気がたまたま快晴で、気温がたまたま丁度よくて。加えて日向ぼっこをしたい気分に駆られたルカは、自分の店の軒先に、呑気にしゃがみ込んでいた。
 そんな小さな偶然が重なって、その少女と出会ったのだ。
 年齢は二桁に届くか届かないか。小さな頭にのった、不釣り合いに大きな帽子が印象的だった。通りの路地を覗いてはキョロキョロと見回し、別の路地を覗いてはまた同じ動作を繰り返している。迷子だろうか。

「キミ、どうかしたー?」

 なんとなく暇だったから、不審者よろしく声をかけてみる。いきなり呼びかけられたことに驚いたのか、少女はきょとんとしたような顔をした。
 しかし、直ぐににっこりと笑って口を開く。

「探検中なの!」

 つまり、迷子なのだろう。
 にぱっと笑う少女の姿を、何処かで見たことがあるような気がして記憶を探るが、駆け寄ってきた少女にすぐさま思考を放棄した。印象に残っていれば、そのうち自然と思い出すだろう。
 少女は座ったまま自分を見上げるルカに、人懐っこい笑顔を向けてきた。

「クロードっていうの。お兄さんは?」

 自分を指差し、次にルカを指差して訊ねてくる。

「ルカ、だよ」

「ルカ!」

 答えてやれば、クロードは楽しそうに名前を呼んで、ルカの真似をするように隣にしゃがみ込んだ。下から覗き込むように、珍しげにルカを眺めて、最終的に不思議そうに首を傾げた。

「ルカ、変だねー。セルみたい」

 一般人の口からはまず出ない言葉に、一瞬ルカの思考が止まる。

「セル、か……見えるの?」

「見えるよー」

 あっさりと肯定したクロードに、ルカは珍しく頭を悩ませる。
 タイム・セルが見えるということは、クロードがタイム・セルを何らかの形で保有しているということに違いない。目の前の少女を葬るのは簡単だ。問題はそこではない。タイム・セルという特異な存在を当たり前のように受け入れながら、少女からは警戒心が全く窺えない。
 つまり、確実に少女を庇護している存在がいるということだ。下手に危害を加えれば、黙ってはいないだろう。

「困ったなー……」

 計時機関の対応が厳しくなってきている今、余計な問題を抱え込みたくはない。なるべく穏便に済ませたいところだ。
 たまたま目の前にあったクロードの頬っぺたをつつきながら、ルカは考える。無意味に唸ってみたり、首を捻ってみたり。
 しばらくして、思いついたように手を打った。

「そうだ、秘密にしよう!」

 難しく考えるからいけないのだ。《なかった》ことにしておけば波風立たず、尚且つ誰も困らない。ついでに子供は総じて秘密や内緒の類が好きな生物だ。きっとクロードも協力してくれるだろう。
 我ながらナイスアイディアだと一人頷いているルカに、話に付いていけていないクロードが首をひねる。

「秘密?」

「そう、二人だけの秘密な。オレのこと、誰かに言ったらダメだよ?」

 わかった? とルカが問えば、案の定、クロードは目を輝かせて頷いた。

「わかった!」

「よし!えらいえらい」

 クロードの頭を帽子の上から撫でて、ルカは立ち上がる。

「なんかお腹空いたし、サンドイッチでも作ろうかな〜。クーちんも食べる?」

 ものはついでと、恐らく無事に家に帰れるまでは食事にありつけないであろう迷子の少女を食事に誘ってみる。

「食べるー」

 素直に首を縦に振ったクロードに手を差し出して、半ば引っ張るようにして立ち上がらせた。勢い余ってルカにぶつかったクロードは、何が面白いのかけらけらと笑う。

「ルカ、優しいねー」

「それはどうだろうねー」

 純粋なクロードの笑顔に、とりあえず笑顔を返しながら肩をすくめる。
 気分屋を自認している自分は、優しいわけではないと思う。目の前で笑う小さな少女がタイム・セルに関係しているのだとしたら、事情によっては手にかけなければならない日が来るかも知れない。その時に自分がどんな行動を選択するかなんて、その時に直面した自分にしかわからなくて。
 助けてあげると言い切れないのだから、やっぱり優しくはないのだろう。
 それでも、今は、笑っていたい気分だった。

 ただ、穏やかに。





fin.
2012/07/21 公開
2018/10/19 修正

thanks!!


⇒ ルカ(サラキさま)

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