覚悟の意味〈The Past〉
「……このことか」
数ヶ月前に言われた言葉の意味を、今になってようやく理解する。
『いつも通りに出掛けた人が、死体になって帰ってくる。そんなの、よくあることだよ』
覚悟は早めにしておけ、と。
兄のような存在を亡くした直後に、自分より小さな時計屋は静かに言った。
「……覚悟、か」
目の前には、物言わぬ死体となった姉の姿。
計時機関側なりの配慮なのか、自分が部屋に通された時には化粧すら施された綺麗な状態で、ただ眠っているだけのようにしか見えない。お蔭で実感も湧かなかった。涙すら出てこない。
ふと、下ろされた姉の髪先が湿っていることに気付いて、何となく手を伸ばす。触れれば、指先に付着する紅。僅かに漂う血の臭いに、心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚えた。
しかし、涙となって溢れてはこない。
「……棺桶でも見れば、泣けるのか?」
昇華しきれない圧迫感に顔をしかめて、もう答えてはくれない姉へと問いかけた。
fin.
2012/07/21 公開
2018/10/19 修正
