お茶会日和
不便なことに、時間の定まらないこの世界では、何をするにも集合日時に誤差が生じるのは当然である。
タイム・セルの影響をある程度コントロール出来るホスティア誓教会も、さすがに例外ではない。年に数回、中央大聖堂に集まって行われる高官会議でも、全員が揃うまでに数日を要する。
会議開催までの数日は、滅多に顔を合わせることのない同僚との会話や情報交換にあてる司祭が多い。補佐という名目で連れて来られた助祭たちの間でも、空いた時間でお茶と会話を楽しむのが恒例になりつつあった。
「マリーさん。はい、どうぞ」
「わぁ……!ありがとうございますっ」
リューディアに差し出されたティーカップを受け取って、ローズマリーは笑顔を浮かべる。淹れられた紅茶は綺麗な琥珀色。仄かに香る美味しそうな匂いに、自然と頬が綻んだ。
丸いテーブルを囲うように、ローズマリーの斜め前にはシスティナが腰掛けている。彼女にも紅茶を手渡したリューディアが席に着き、ようやくカップに口をつける。
温かいお茶を一口飲んで、ローズマリーは小さく息を吐く。
「こう、のんびりとした時間を過ごしていると、司祭さまに怒られたこととかも、どうでもよくなっちゃいますね〜」
「マリーさん、怒られてしまわれたんですか?」
意外そうな顔をするリューディアに、事情を理解しているのか苦笑するシスティナ。公私の分別はつけるローズマリーだ。仕事で怒られることはほとんどない。司祭であるディルの逆鱗に触れるのは、主に彼女の仕事以外での言動である。
不思議そうに首を傾げるリューディアに、ローズマリーは明るく笑う。
「もう、毎日のように怒られてますよー」
二人の司祭は優しくて羨ましいとローズマリーが口にすれば、リューディアとシスティナはそれぞれ困ったような笑顔を浮かべた。
「確かに、イーシアス様はお優しいですけど……目を離すと、すぐに急須を探しに行ってしまわれるんですよ?」
「イェルド様にも困らせられます。怒られたことはありませんが、賭事は控えていただきたいものです」
真面目な司祭を持てて羨ましいと告げられて、ローズマリーは黙って微笑んだ。
その後も三人は、仕事の話や趣味の話、他愛のない話題に花を咲かせる。ふと、聖堂の方へ視線を向けたリューディアが、ぱっと顔を綻ばせて立ち上がる。
「イーシアス様!」
リューディアの口から出た上官の名前に、ローズマリーとシスティナも立ち上がる。視線を向ければ、名前を呼ばれたイーシアスと、丁度よくローズマリーとシスティナの上官であるディルとイェルドも連れ立っていた。
「おや、お茶会ですか?」
「お茶会っつーか、女子会?」
「やることは終わらせてあるのか?」
各々、疑問符を浮かべながら近付いてきた司祭たち。仕事の話でもしていたのだろうか、それぞれの手には書類が握られている。
「宜しければ、司祭様たちもお茶を飲んで行かれませんか?」
「お時間あれば、いかがでしょう?」
リューディアとシスティナに勧められて、イーシアスとイェルドは頷いた。
「じゃあ、貰おうかな」
「お言葉に甘えて」
「ちょっと待て貴様ら!」
悩むことなく首を縦に振った二人を制止したディル。手にしている書類を突き付けて、咎めるように口を開く。
「これから書庫に行って仕事の予定だろう!」
「まーまー、固いこと言うなよ」
「頑張りすぎは身体に悪いですよ?」
「貴様らが緩いんだ!」
ディルの正しい訴えも虚しく、イーシアスとイェルドはすっかり腰を落ち着けてしまった。
そんな二人に怒ればいいのか呆れたらいいのか決めかねている様子のディルに、ローズマリーがのんびり笑いかける。
「いいじゃないですか、司祭さま。今なら特別に混ぜてあげますよ?」
「お前はなんで上から目線なんだ……」
諦めたように溜め息を吐いて、最終的には椅子に腰を下ろしたディル。
「どうぞ」
未だ憮然とした様子の彼の目の前に、そっと置かれたティーカップ。綺麗な色の紅茶が揺れて、上品な香りが漂う。
「いい匂いでしょう、司祭さま?」
そう得意げに笑うローズマリー。
貴様が淹れたわけではないだろうと、やはり憮然と呟きながらも、ディルは素直に頷いた。
青い空の下、穏やかに過ぎる午後のひととき。風も穏やかで心地よい。
今日は絶好のお茶会日和。
fin.
2012/08/28 公開
2018/10/18 修正
thanks!!
⇒ ローズマリー,ディル(宮古めうさま/撤退済)
⇒ システィナ(閏宮さま/撤退済)
⇒ イーシアス(サラキさま)
