少女たちのオカルト指南!
いつも通りの桜花学園の昼休み。生徒会室で昼食を食べようと思い立った理人は、目的地へとたどり着いて扉を開いた。
そして、その向こうに先客の姿を確認して、自分の行動が軽率だったことを知る。
「あ、会長!」
「こんにちは、理人会長」
生徒会役員である二人の先客──夏野と那日奈に声をかけられて、理人は曖昧な笑顔を返した。別に二人が苦手なわけではない。好きか嫌いかと問われれば、好きと答えられるくらいには好感を持っている。
理人の後悔の原因は、夏野と那日奈の前に積まれた十数冊の本だった。
見るからに『怪しい』としか言い様のない雰囲気を醸し出すそれらに書かれている文字は、魔法や錬金術や幻獣から、はたまたUMAの三文字まで。ありとあらゆるオカルト要素に溢れた本の数々は、生徒会室を独特な空間に仕立てあげていた。
「会長はこれからお昼ご飯かしら?」
屈託のない笑顔を理人へ向ける夏野。自分たちの持ち込んだ本により、理人が空間に違和感を覚えていることなど知るよしもない。
そんな彼女に、理人も表面上は至って普通に反応を返す。
「あぁ、うん。たまには此処で食べようかと……」
そう、思っていたのだが。
積み上げられた怪しい本を前に、食事をする気は正直に言うと減退気味だ。
しかし、今さら教室へと引き返すのも不自然だろう。覚悟を決めて、理人は教室に踏み込む。二人の向かいに腰掛けて、持ってきたサンドイッチの包装を破った。完食出来るか否かは今後の展開による。
当初の目的通りに昼食を食べ始めた理人の前で、二人は実に楽しそうに本を捲っていた。興味深い文章でも見つけたのか、夏野が那日奈の肩を叩く。二人で本を覗き込んで、何事か言葉を交わせば笑顔を見せる。
手元の本が怪しげな本でなく、話の内容がもう少し爽やかな内容であれば純粋に微笑ましい光景だ。
極力、会話は聞き流すようにして、楽しげな学友を眺める理人。
しかし、特に頭を働かせることなく視線を送っていたのがいけなかった。ふと顔を上げた那日奈とばっちり目が合う。
「見て下さい、理人会長」
ヤバい、と思った時には既に手遅れ。輝かんばかりの笑顔を向けられて、会話に巻き込まれることとなった。
「この本、市場にはあまり出回っていないんですよ。夏野さんに無理を言って取り寄せて頂いたんです」
「いえいえ、お安い御用よ!」
嬉しそうな那日奈と楽しそうな夏野。
つられて差し出された本へと目を落とせば、黒い表紙に書かれた『拷問史』という単語が目に入る。那日奈の目にはそれが魅力的に映るらしいが、理人には不穏さしか感じられなかった。
「それは、その……面白い……の、かな?」
反応に困った理人の口からは、無難な言葉しか出て来ない。
「はい。とても面白いですよ」
「私も読ませて貰ったけれど、興味深い内容だったわ」
笑顔で頷く二人を前に、理人は笑おうとして失敗した。表情の固い理人に、残念そうに那日奈は呟く。
「会長は……中世にあまり興味がないでしょうか?」
中世に……というか、拷問という物騒な文化に興味がないだけなのだが。あまりにも残念そうに視線を下げる那日奈に罪悪感を覚えて、はっきり言うのは憚られる。
「じゃあ、宇宙人は信じる?」
方向性はともかく、タイミングよく話題を変えてくれた夏野に、理人はひとまず胸を撫で下ろした。
「宇宙人より幽霊の方が身近じゃないでしょうか?」
「あぁ、そうね!会長は、幽霊って信じるかしら?」
心霊関係の書籍を手に、瞳を輝かせながら問いかけてくる夏野。彼女の横で、那日奈も興味深そうに首を傾げて視線を送ってくる。
二人の注目に耐えきれず、理人は明後日の方向へと視線を向けた。
「いや……どう、かな?」
──勘弁してくれ、と。
内心、悲鳴をあげながら、理人は望まぬ形でオカルトへの見識を深めることとなったのだった。
〈了〉
2012/08/28
thanks!!
⇒ 桜庭 理人(閏宮 さま)
⇒ 柳沢 夏野(ショウ さま)
