今や遅しと



放課後でぃと


 放課後の図書室。ちょっとした用事から立ち寄ったその部屋で、葛ノ宮愁一は見知った顔を見つけた。
 窓際に腰掛けるその人物に、何とはなしに近付けば、足音に気付いたのか手元の本から顔を上げる。

「……なんだ、愁一か」

「なんだ、とはなんだい? 失礼な奴だね」

 開口一番、期待外れだというように返してきたのは、クラスメイトである凜堂 朱衣。反応から察するに、待ち人でもいるのだろう。

「こんな時間に待ち合わせかい?」

「そ、那日奈を待ってんの」

「……待ち伏せ?」

「そんな犯罪紛いのことするわけないだろ、失礼な奴だな」

 先ほどの自分の反応は棚に上げて、心外だというように顔をしかめる朱衣。真剣に読んでいたわけではないのだろう、中途半端に開いていた本のページを適当に指先で繰る。

「那日奈が、生徒会終わったら、本屋に一緒に行ってくれるって言うからさー」

「へぇ……」

 自慢するように得意げな笑みを浮かべる朱衣に対して、愁一の反応は芳しくない。
 そもそも、朱衣が副会長である那日奈に好意を寄せているというのは、学年中どころか学校中に知れ渡っている周知の事実。異国の血が混じった血筋のせいなのか、本人の行動も周囲を気にすることなくオープンであり、今までにも幾度となくのろけられてきた。はっきり言って、またか、という心境なのである。

「っていうか、よく考えたらこれってデート? 放課後デートなのかっ」

「はいはい、それはよかったねー」

「聞けよ愁一!」

 半ば別のことに意識を飛ばしながら、朱衣の話を聞き流していた愁一。
 しかし、朱衣のものではない柔らかい声が耳に届いて、意識を引き戻す。

「図書室では、静かにしましょう」

「那日奈!」

 現れた待ち人に椅子を派手に鳴らして立ち上がった朱衣に、全く話を聞いていないなと苦笑しながら、愁一も那日奈へと顔を向ける。

「や、副会長。朱衣と二人で本屋だって?」

「えぇ、ちょっと参考書を見に」

 そう頷く那日奈は、同性である愁一から見ても『可憐』と形容できる少女だ。おまけに性格も穏やかで人望も厚い。朱衣以外にも憧れる男は多いだろう。

「気をつけなよ? 男はみーんな狼だからね」

 おどけたように忠告する愁一に、一瞬、きょとんとしたように首を傾げた那日奈。意味を汲み取り、可笑しそうに微笑む。

「確かに……それはたいへんですね」

 笑い合う女性二人に挟まれて、愁一曰く《狼》である朱衣は微妙な表情だった。

「そんなことより、那日奈。本屋!明るいうちに行くんだろ?」

「あぁ、はい。行きましょうか」

 居心地の悪そうな朱衣に急かされて、頷いた那日奈はそのまま踵を返しかけ、動きを止める。そうだ、と思いついたように愁一を振り返った。

「お時間あれば、愁一さんも一緒にどうですか?」

「え」

 那日奈の唐突な発案に、声を発したのは朱衣だった。
 そんな朱衣を気にすることなく、どうでしょう? と訊ねる那日奈に、愁一は考える。別段、参考書に困ってはいないが、学年上位をキープする才女の意見なら聞いてみたい気もするし、何より本屋は久しぶりだ。店内を見て回るだけでも楽しいかも知れない。

「……じゃあ、ご一緒しようかね」

 首を縦に振った愁一に対して、嬉しそうな笑顔を見せる那日奈とは反対に、非難がましい視線を向けてくる朱衣。
 ──本当に、わかりやすくて失礼な奴だ。

「“デート”の邪魔して悪いね、朱衣?」

 わざとらしいくらいの爽やかな笑顔を浮かべる愁一に、励ますように肩を叩かれて。

「邪魔だと思うなら来るなよ……」

 朱衣は苦々しい表情で呟いた。





〈了〉
2013/03/08

thanks!!


⇒ 葛ノ宮 愁一(ヒナ さま)

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