無題4
いつも通りに木陰で本を開きながら、慈は迷っていた。
先程まで文字を追っていた視線は、現在、隣で規則正しい寝息を立てる澄へと注がれている。春とはいえど、夕方の風は未だ冷たい。放っておけば風邪を引いてしまうかも知れない。
芝生の上で横になる澄はとても気持ちよさそうで、起こすのは忍びなかったが、それでも風邪をひかせるわけにはいかないと、控えめに澄の身体を揺すった。
「えぇっと、澄くん……?」
風邪ひくよ、と呼び掛けられて、澄は薄く目を開く。が、覚醒するまでには至らなかったようで、瞼は完全に開くことなく閉じられてしまった。
再び穏やかな寝息を立て始めた澄。
慈はさんざん悩んだ末に、着ていた上着をそっとかけた。頬を撫でる風に体温を奪われるが、寄ってきた澄の飼い猫を膝へと抱き上げれば十分に温かい。
三十分経ったらもう一度声をかけよう。
そう決めた慈は自分の膝の上で身体を丸めた猫をそっと撫でて、再び本のページに目を落とした。
<了>
thanks!!
⇒ 榊織 慈(さきん さま)